俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
「先生、ありがとうございました」
「ババーッ!」
「バイ、バー」
託児所から出て、一番にしなきゃならない事。
目線の高さを屈んで、二人に合わせる。
「二人ともよく聞いてね。 ママ、これから少しご用事があるの。 だから今日は、伊織お兄ちゃんと一緒にお留守番してて欲しいの」
「ヤァァァーッ! 」
「いく〜っ! 」
だよね……。
「よく聞け、チビども! なんと今日はお兄ちゃん特製のハンバーグだぞ! 」
伊織がどうだ! と、ばかりに二人を見る。
「「ハンバー!! 」」
おおおぉっー!! と目をキラキラさせる二人が可愛い。
でも…… と言いたげに、アルはチラッと私を見る。
「し、か、も! アルの好きなクマとルルの好きなうさぎのハンバーグだぞ。 一緒にコネコネするか? 」
「クー?! 」
「コネコネーッ! 」
二人はトテトテと、伊織に抱きつく。
「チョロいな、お前ら! 」
嬉しそうに、破顔して二人の頭をワシャワシャッする伊織。
滅多に見られない本当の笑顔だ。
「ヤダ〜ッ、誰かと思ったら、あなたこの病院の看護師だったのね」
カツカツッと、およそ病人とは思えない、八センチはありそうなピンヒールを履いて、近づいて来た。
「あ…… アイシャさん…… ご無沙汰しています。 倒れたとお聞きしましたが、体調の方はいかがですか? 」
「おかげさまで。 アミールが大袈裟に心配するから、大事を取って一日入院するだけよ 」
彼女はお腹に手を当てて、頬を赤らめた。
そう言えば、看護師達が、おめでたかもと噂してたな…… と記憶を探る。
(…… いいなの、かな? こんな時に、アミールと会って…… )
罪悪感が湧いて来て、戸惑いが生まれる。
(アイシャは知っているのかな? これから彼と会う事を…… 普通に考えて、彼女の婚約者と黙って会うのはダメじゃないか……? 私なら嫌だ…… ん?、一夫多妻制だと、他の人と会うのは普通の事……なのかな……?)
それでも、子供達の事はやっぱり彼女には、知られたくない。
(あれ…… でも…… )
悶々と悩む私は、やっぱりアイシャに伝えた方が良いと、口を開きかけた。
「アイシャさ…… 」
「マンマー!!」
「たべゆー!」
アルとルルが待ち切れなくて騒ぎ出す。
「一花、そろそろ…… 」
伊織が携帯で時間を確認する。
「…… あなた結婚してたの?!」
伊織の影に隠れていた、アルとルルに気がついたアイシャは二人を見て、目をこれでもか、と見開き固まった。
「ちょっと、その子達、顔をよく見せなさい!! 」
二人に向かって手を伸ばし、顔を掴もうとする。
「「ヤァーーッ!」」
驚いて二人は伊織にしがみ付いた。
ドキンッと背筋から震えが上がってきて、思わず子供達の前に、サッと立ちはだかって、彼女から見えないように隠してしまった。
「行こう」
アイシャに向かってペコリと、頭を下げて、二人を抱き抱えると、伊織は歩き出した。
「あ、では…… 私も失礼します。 お大事にしてくださいね」
慌てて、三人の後に続いた。
罪悪感に苛まれながら、アミールに会いに行く私は、なんて酷い奴なんだろう…… 胸に手を当て、ぎゅっと服を握りしめた。