京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
何とか宿泊ホテルに着いた史織は、その翌日。借りていた履き物を見下ろして途方に暮れていた。
新しい靴を買わなければならないので、それまでこの履き物は拝借しておかなければならない。のだけど……
葵の顔が思い浮かぶ。
はきはきと遠慮がなく、道を切り開くような自信と勢いに満ちた、自分に無いものを持った人。
最後の挨拶があれで良かったのかは分からない。
でも仕方がなかった事だし、これで問題は無い筈だ。元々もう、会う事も無い相手だった。旅の思い出が彼女との関係に亀裂を入れるものになるのも嫌だ。
史織はスマホで近くの靴屋を検索し、早速替えの靴を買ってきた。それからホテルのフロントに経緯を話し、履き物を借りたホテルへ届け物が出来るか聞いてみる。
思っていたより近隣だった事もあり、ホテルマンは親切に承ってくれた。
(これでもう、おしまい)
買ってきた靴の箱に入れ直したそれにお礼を込め、史織は京都駅に向かった。
お土産を買って、帰りの新幹線の時間に合わせてゲート入りをして、一度だけ後ろを振り返る。
沢山の観光客たちが行き交う駅の中、史織の存在なんてここではほんの一時通り過ぎるだけの、沢山の中の一人。
やがて葵にとっても史織が観光客の一人と思うように、史織も彼が思い出の一つに薄れていく。
それを寂しく感じるのは、初めての一人旅だからだろうか……
ふと葵の言葉が思い出される。
『お前みたいにすぐ泣く女は嫌いやねん』
(……だから、なのかな)
こうしてすれ違う程度にしか会えなかった理由。
ついそんな事を思う。けれど自分への失望と同時に、変わりたいという思いが高まった。だから……
「ありがとうございました、さようなら」
旅の思い出と、きっかけをくれた事。
でも──
もし自分が思う通りにきちんと変わったら、また会いたいという願いを込めて。
史織は帰りの新幹線へと向かって行った。