スノー&ドロップス
 家の部屋で布団にくるまり、思い出しては何度も涙を流す。話せなくてもなんとか正気でいられたのは、心のどこかで鶯くんのせいにしていたから。

 関わらない約束を交わしただけで、心は通じ合えていると思っていた。
 でも、その希望すら散ってしまった。

 耐えられなくて、学校を休んだ三日目の夕方。学校から帰宅した鶯くんが、部屋のドアを開けた。
 塞ぎ込んでいる私の横へ腰を下ろして、ふんわりと頭を撫でる。

「まだ起きれなそう?」

 くるまったまま黙っていると、布団越しに鶯くんの切ない声が聞こえた。

「ご飯くらい食べな。今日は茉礼の好きなハンバーグだって。朝、母さんが言ってた」

 もそもそと、さらに布団の奥へ入り込んで、赤ん坊のように縮こまる。

「明日、生きる……自信がない」

 誰からも認められなくて、透明人間でいた頃は、目を瞑っていれば時間は過ぎていた。嫌なことは他人事にして、現実から意識を遠ざけていたら我慢できた。

 鶯くんが全てだったから、他の人はどうでもいい。そう言い聞かせて、成り立って来ていたことが、完全に崩れてしまった。

 藤春くんに嫌われたくない。他の子に触れてほしくない。たとえ叶わなくても、一緒にいたい。離れれば離れるほど、想いは強くなっていく。

 布団が沈み、鶯くんが近づいた。ちょうど頭の上あたりで声がする。


「僕では、茉礼の【すべて】にはなれなかった」

< 192 / 204 >

この作品をシェア

pagetop