黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
「手、洗って」

シンクの前にいた八重樫君が場所を譲るように言った。

「あっ、うん」

私は手を洗い、ジャケットをダイニングチェアにかけて早速ご飯を頂いた。

見た目も美しく、味も美味しい。脱帽だ。

なんでもできる男子の異名を心の中で八重樫君に授けた。

「これじゃあ、彼女は肩身狭いね。手料理作れなくなっちゃうよ」

「そう? 俺は好きな子が作ってくれたら何でも美味しいと思うし嬉しいけどね」

「いや、不味いものは食わせるなと言ってたよ」

「よく覚えてるね」

「暗記したからね」

「そんなに俺の事好きなの?」

「いや、あれは……」

ミッションだったと何故言えよう。

「知ってるよ。女子達に聞けって言われたんでしょ。じゃないと双葉の口からあんなに次から次に質問出てこないでしょう。それに、急に女子の間で赤いリップが流行るわけ無いよね」

「バレてましたか」

「バレバレ。人に根掘り葉掘り聞いといて肝心の本人は赤いリップ付けないし、煮物アピールもしてこない」

そんなところまで見ていたのか。

「すみません」

「罰として今日は同じベッドで寝る事」

八重樫君は悪戯な笑みを浮かべた。

「なんで? ってか、風邪ぶり返したかも。ゴホンゴホンだから無理だ」

「風邪ひいてなきゃいいんだ」

「違う。今のは言葉のあや」

「風邪は治ったから仕事行ったんでしょ? あぁ、でもそっか。俺は双葉と同じベッドで寝ても平気だけど、そっか、そっか、双葉はね、まぁ我慢できないよね」

「何言ってるの? 私は蓮が隣で寝てようが何とも思わないよ」

「じゃあ成立ね」

成立? 騙された。

売り言葉に買い言葉。

だがそんなこと関係はない。

私は八重樫君に先にお風呂に入るようにお願いして、一宿一飯の恩義として食器を洗った。というか、食洗機が働いているのを監視して考えていた。

これからどうする?
いや、どうするも何も何のために運転手さんに布団を運んでもらったんだ!

私は玄関に戻り、袋に入った布団を持ち上げ、リビングに移動させた。
テレビとソファーの間にあるローテーブルをなんとか移動させるとちょうど布団が収まった。

テレビ前を占拠するとは図々しいかもしれないが、すぐに確保できるスペースはここしかないのだ。

ひと汗かいた職人のように腕で額を拭い、一息ついたところで八重樫君がお風呂から上がってきた。

「何してんの? まぁ、いいけど。風呂どうぞ」

私は汗を流すかの如く温かな湯船に浸かった。
平日に湯船に浸かるなんて幸せだなぁと思いながらお風呂を上がると私の布団の中には八重樫君が入っていた。

「温めといたよ」

いや、温めないでくれ。

「ほらおいで。来ないなら覚悟しろよ」

うん、もう、いろんなことを覚悟しなきゃいけないような気がしてきました。
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