黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
そしてある日、私は資料室にいた。
棚に戻そうと持ってきた資料は後一歩のところで収まらなかった。

「やっぱり踏み台ないと届かないか」

誰もいない資料室で一人呟きながら諦めようとしたその瞬間、私の手に触れる男の人の手、そして資料は棚に収まっていく。

ドクンドクン

このシチュエーションよく漫画で見ます。

「こんなところにいたんだね。双葉」

八重樫君。

今度は何を……。

「誰もいないね」

そう言うと壁ドンならぬ棚ドン。
私まだ後ろ向きですが、これは何プレイ?

「こっち向いて」

無理無理無理。

「早くしないと誰か来ちゃうよ。それとも後ろからが良いのかな」

後ろからってどういうこと?

私は細心の注意を払い八重樫君の方に身体を向けた。

「ちょっとだけ」と言うと八重樫君は唇を重ねてきた。

いつもと違う場所でのキスはドキドキが増す。そしてこんなシチュエーションなら尚更だ。

「元気出た。ありがとう」

ありがとう……って、それだけ? え、えぇ~!  私を置いていくの?

入口から出て行く八重樫君の背中を見つめ心の中の手を伸ばしていた。

そ、そうだよね。現実、こんなとこではできませんよね。何を考えているんだ私は。

最近、八重樫君とはそういう事もお盛んに楽しんでしまっているからって、いつからどこでも体を重ねることを期待してしまう女になったんだ。

両手で頬を叩き、一旦トイレに行って気持ちを整える。
個室に入り、便座に蓋をして座り、深く息を吐いたその時だった。

「最近さ八重樫君、黒子ちゃん黒子ちゃんって何あれ?」

「それ私も思った!」

うわっ陰口……。
しかも声からするに給湯室で八重樫君のデート疑惑を話していた八重樫君ファンの子たちだ。

私が個室にいることに気付いてない。

「本当に見てられない」

そうだよね、私なんかが八重樫君からちやほやされているとムカつくよね。

「黒子ちゃんに媚び売っといて営業成績上げてもらおうとしてるんだよ」

「だよねー。うちの営業って黒子ちゃんに頼り過ぎ」

え? 話が思わぬ展開に進んでいる。

「黒子ちゃんもさ、何でも引き受けちゃうからいいように使われるんだよね」

「そうそう。あれさ、黒子ちゃんならやってくれるのにってボヤかれるから本当はあんまり引き受けて欲しくないよね。まぁ、うちらも黒子ちゃんにお願いしちゃうけどね」

そんな弊害が……申し訳ありません。

自分でやった方が早いからやっていたけれど、これからはなるべく断ります。
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