虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
九条くんは厳しい顔で藤堂社長を見つめていたけど、ふいに表情を緩ませて、こう言った。
「まず、僕と理恵の結婚式の仲人を務めること。拒否は認めません」
「九条……」
「それと、ずっと会社に居続けること。富永や嶋田の追い出しもそうだし、その他にも、大日本航空に長年積もった澱を、あなたが大掃除するんです。他の人に任せるなんて怠慢は許しません」
「……」
「社長の任期を終えたら会長を、会長の任期を終えたら相談役を。少なくとも僕が空を飛んでいるうちは、大日本航空を離れることは許しませんから」
「九条、私は……」
「あなたが表面上は富永や嶋田の操り人形のふりをしながら、肝心なところでは会社や社員を守ろうとしていたこと、社内で知らない者はいません。だから風間さんも僕も、他のみんなも、あなたを見捨てなかったんです」
「……」
「あなたは父の親友でした。きっと父が望んだだろう、安全で笑顔に満ちた空を、あなたの手で作り上げてほしいのです。僕達も、お手伝いいたしますから」
紫月さんも、言葉を添えた。
「藤堂社長。我が御倉もあなたを全面的にバックアップいたします。どうか大日本航空の立て直しに、お力をお貸しください」
皆の視線の中で、藤堂社長はうつむいて目を閉じていた。
そしてゆっくりと顔を上げて、弱々しく微笑んだ。
「九条、他のみなさんも、本当にありがとう。──だが、私は自分自身が許せないんだ。今も瞼を閉じれば、九条の──君の父親の、機体の幻が目に浮かぶ。最後まで乗客を守って飛び続けようとした、あの白い機影が……」
「父はここにいます、藤堂社長」
急に九条くんが言った。
驚いて見る皆に、九条くんは静かな声で、語り始めた。
「あの日、羽田空港へのファイナルアプローチに入ったときでした。急に耳元でフライトデータを読み上げる声がしたんです」
「……」
「僕は原田さんが意識を取り戻したのかと思って機長席を見たのですが、原田さんは血まみれで、ぐったりしたままだった。不思議に思ったけど、滑走路はもう目の前で……」
そういえば、着陸態勢に入った九条くんが、何かに驚いたような声を漏らしたのを、運航管理センターにいた皆が聞いていた。
「気を取り直して、ランディングに集中したのですが、定位置で接地したけどリバーサー──逆噴射が作動しなかった」
「……」
「海に突っ込む、そう覚悟したときでした」
九条くんは、語った。