Gentle rain
それを思い出せただけでも、彼女は、ここに来た事をよかったと思ってくれるだろうか。


「階堂さん?」

「ん?」

「私に何か、ついていますか?」

「ああ、ごめんごめん。」

あまりにも、彼女を見つめすぎてしまった。

それでも普通に料理を口元に運ぶなんて、彼女は余程この状況に慣れているんだろうな。


「あまりにも、美味しそうに食べるものだから、つい。」

「ええ!やだ、恥ずかしい。」

彼女は少し頬を赤くして、手で顔を煽いでいた。

本当はそんな事で、君を見ていたんじゃない。

滑らかな仕草に、ほんのりとした色気を匂わせる落ち着いた雰囲気、コロコロと変わるその表情に、俺はすっかり目を奪われているんだ。


「美雨ちゃんは、大学生だっけ。」

「はい。大学二年生です。」

「バイトは順調?」

「はい。」

俺の質問に、YESしか答えない彼女は、まだ俺に心を開いていないのかとも思う。

「美雨ちゃんは、大学を卒業したら、どうするの?」

彼女の事だから、夏目のコネで一流企業にでも就職するか、自分の家の会社に就職するか。

いずれにしても、彼女の将来は半分決まった物。

俺は勝手にそう思っていた。

「私、大学を卒業したら……」

「うん。」

「……今のアルバイトの仕事を、続けてみたいんです。」
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