同居人は無口でクールな彼



「…………っ」


本当に恐怖を感じたときは、声なんて出ないみたい。

相手の顔だって見られなくて、もうこの世が終わったとまで感じてしまった。


「どうして逃げるの?」

気持ち悪い声が、吐息混じりに耳に届く。


体も固まって動かない。

助けも呼べない。

涙も出なかった。


ただ、頭が真っ白になって、呼吸が苦しいだけ。

このままどこかに連れ去られてしまうのかと思ったときだった。



「おい!」


突然男から引き離されて、気づいたら誰かの背中が見えたのは。

この背中は――


そして、走り去っていく足音が聞こえて、だんだんと視界がぼやけていった。


「くそ!逃がしたか」


彼の背中は見ているだけですごく安心させてくれる。


来てくれた、翔哉くんが。

わたしを助けに――。




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