旦那様は征服者~慎神編~
莉杏をゆっくり自分から下ろし、ベッドに寝かせた。
服に着替えて、屋敷を出た。

奏瑪が待っていて、後部座席のドアを開けた。
乗り込んだ、慎神。

いつもなら「よろしくね!」と言って、頭を撫でる慎神。奏瑪に触れもしない。

これは、とても重要な意味がある。

奏瑪は身体を固くして運転席に乗り込み、発進させた。

「オーナーは、呼んでるよね?」
慎神が煙草を咥える。
火をつけようとする奏瑪を、振り払った。

「早く、行って!新汰が待ってる」
「はい…かしこまりました…」

会員制のバーに向かった。
店前に、オーナーとあの店員が待っていた。

「天摩様!今回━━━━━━」
「待って。
中で話そ?」

中に入ると、バーのオーナーが出迎えた。
「慎神様、お待ちしてました」
「新汰は?」
「お待ちです」
「ん。ごめんね、営業時間外なのに…」
「いえ。慎神様の為ならいくらでも……!」
「ありがと」
頭をポンポンと撫で、奥に向かった。

「王子ー!会いたかったよぉ」
慎神に抱きつく、新汰。
慎神は新汰の頭をポンポンと撫でた。

「で?この集まりは何?」
新汰が慎神の横に座り、煙草を吹かしながら言った。

二人の向かいに、奏瑪、オーナー、店員が座っている。

「オーナー」
「はい」
「莉杏の手紙、今何処にあるの?」
「処分して、もう手元にありません」
「そう…羨ましいなぁ。莉杏からの手紙」
「申し訳ありま━━━━━」

「俺は、謝ってほしいんじゃない!
………………そこの無能だよ!」
店員を睨み付ける。

「あの、私はお礼を……」
「奏瑪、オーナー」
「「はい」」
「この女、無能でしょ?」

「そうですね…」
奏瑪は静かに言った。
「この女が余計なことしなければ、莉杏がしたことは誰も傷つけることなく、いつも通り過ごしていけた。
奏瑪も、オーナーも、莉杏も……
俺も知らないままで済んだ。
奏瑪とオーナーは、俺にバレないように完璧にしてたはず。
……………なんで、お礼言いに来たの?
オーナーの事だから、内密にって言われたんじゃねぇの?」

「どうしても、奥様にお礼を言いたくて。
でも奥様にはお会いできないので……」

「オーナー」
「はい」
「どうする?この無能」
「天摩様のおっしゃっていた通りでした」
「ん?」

「絶たないと、大変な思いをする」
「でしょ?」
「それに、奥様の気持ちも踏みにじってしまった」
「そうだね」

「明日、退職届出して」
オーナーは静かに店員に言い放った。

「オーナー!!」
「言ったよな?くれぐれも内密にって!
奥様の気持ちを汲んで、頑張れって!
お前は、その意味をちゃんとわかってなかったんだな……奥様が、可哀想だ。
……………これは、お前の自業自得だ!」
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