秘密のノエルージュ

「最初から合ってなかったんだって。菜帆とその先輩は」

 自分自身の『好き』『気になる』という気持ちの薄っぺらさに呆れていると、大和がその感情を掬い上げてくれた。菜帆が悪かったわけじゃない、と言葉で慰めてくれる。

 不思議と安心できる。もちろん、すぐに次の恋をしたいとは思っているわけじゃない。でも大和には、先輩をあっという間に忘れてしまいそうな薄情な自分を『悪い事じゃない』と言われている気がした。

「うん。私、今度はこの趣味を受け入れてくれる人を好きになりたいな」
「菜帆……俺……」
「ま。人を好きになる瞬間って、趣味のことなんて考えてないんだけどねぇ」
「……」

 恋に落ちる瞬間は自分ではコントロールできない。気付いたら好きになっていた、とかそんなものが大半だ。自分でこういう人を好きになりたいと思っても、そう上手くはいかないもの。

「そう、だな」

 菜帆の呟きに、大和が歯切れの悪い返答をしてきた。そんな大和の呟きは、マンションの自動ドアが開く音にあっさりとかき消された。

「ってーか、ほんと……そんなに夢中でなに見てたんだ?」

 先程の会話を思い出したのか、大和が呆れた声を出す。

 下着ブランドのサイトを見ていた、とは言ったが、それがどのメーカーのどんな商品なのかは説明していない。

 真剣な悩みには真剣に返してくれるが、大和は基本的に菜帆で遊ぶのが好きだ。彼にからかわれる材料を渡すのが嫌だったので、そこはにこりと笑って適当に誤魔化した。

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