秘密のノエルージュ

「菜帆?」

 大和の家のインターフォンを押して誰かが出てくるのを待っていると、なぜか家の中ではなく後ろから声を掛けられた。びっくりして振り返ると、すぐそこに大和が立っていた。

「いま家の中、マロン以外は誰もいないって。だから二十時って言ったのに」
「え、あ……、いや……」
「腹減ったからさ。一応パエリア? はあるらしいけど、肉食いたいからフライドチキン買ってきた」

 パエリアと説明されて、オウム返しでパエリアと言ってるけど、大和はきっとそれが何なのかわかってないんだと思う。あまり知らない料理よりも、揚げた鶏肉を好む辺りは男子大学生だ。

 それに今の大和はパエリアのことなんてどうでもいいらしい。ガチャガチャと鍵を開ける大和の横顔は、いつになく嬉しそうだった。

「菜帆も食う?」
「あ……ケーキ、持ってきたの」

 手にしていた箱を大和の前に差し出すと、少しだけ目を丸くした大和が低い声で頷く。

「ああ、そういえば毎年くれるもんな。菜帆の母さんの作るケーキ、甘さ控えめだから売ってるやつより好きなんだ」

 菜帆の母はスイーツを作るのが上手い。クリスマスケーキは昔から作っていて、いつの間にか大和の家のケーキまで菜帆の母が作るようになっていた。

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