悪女のルール〜男を翻弄する悪女は貴公子の溺愛からは逃れられない〜
「待って、行かないでくれ!」

出会う前は高飛車で俺様だった彼は、今では人前で私の身体に縋りついて私を引き止めようとする。

「もう行かないと」

そんな男たちには慣れっこな私はさらっと言い放って後にしようとする。

「どうして、君に相応しい男になる!君に愛してもらえるような男になる!君の欲しいものをなんだって用意する!だから行かないでくれっ!」

彼は人が見ているのにもなりふり構わず、涙を流しながら私を見る。
彼のそんな態度に満足して、私は彼の腕からするりと抜け出して逃げ出してしまう。

「待って!」
彼が追いかけてこようとするのを脇目に、人だかりに紛れて細い路地へと入り込む。
別れの場所には人の多い場所を選ぶのが悪女のルールだった。
そして男に情はかけないこと。別れの言葉はいつも手紙で済ませていた。たった一言“今までありがとう”という言葉を残して。

彼は必死で私を追いかけてきていた。
愛する女を追いかける男の全力疾走には敵わない。
逃げ場を探していると、カフェに入ろうとするスーツの男性が目に留まる。彼はアラン•ドロンみたいにハンサムだった。彼にしよう、そう思って彼の胸元に飛び込む。

「あなたのジャケットのお袖に隠して」
私はそう彼に微笑む。
後ろから走って来る男を見て察した彼は、にっこり微笑んで
「どうぞ」と私をジャケットの中に入れて抱きしめ、そのたくましい身体で顔を隠してくれる。
彼からはこの国の香水の香りがした。

彼が走り去っていったのを見て安心した私は彼を見上げる。
「助けてくださってありがとう」

「構わないよ」
と微笑む彼。

次は彼ね、とにっこり微笑む私に彼は言う。

「よかったらここでコーヒーでも」

「ええ」
私は微笑む。
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