偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 利害の一致と言われて、確かに、と頷きそうになった。けれど首を縦に振る直前で我に返る。

「な……ないない! ありえないですよ」
「……あ? 何がだ?」

 危うく同意しそうになった自分に驚きながら、彼の提案を受け入れることは不可能だと考え直す。

「だって私、美人じゃないですもん」

 そう。あかりは目の前にいる入谷 響一の隣に相応しいとは到底思えない。密かに憧れている奏一と同じく見目麗しい彼に釣り合うような、目を見張るほどの美しい外見なんて持ち合わせていない。

「というかそれ以前に、入谷様はあのイリヤホテルグループの方なんですよね? こんな一般庶民と結婚してどうするんですか? 私、セレブのお作法なんて何もわかりません」

 そして外見云々以上に大問題なのがそれだ。

 確かに利害は一致しているのかもしれない。境遇は似ているのかもしれない。だがあかりと響一では何もかもが違う。

 あかりは田舎の一般家庭に生まれ育ち、ごくありふれた公立小中高を卒業しただけの至って普通の平凡人だ。上流階級の常識やマナーだって何もわからない。

「俺は家柄は気にしない。上等な振る舞いを求めるつもりもない。むしろそういうしがらみがない相手の方が都合がいいぐらいだ」

 しかし響一はあかりの心配をあっさり一蹴する。そんなものはどうでもいい、大事なのはそこではない、と大真面目な表情であかりを誘おうとする。

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