偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「最初に結婚するって言い出したときは本当にびっくりしたよ。兄さんにそんな相手がいるなんて思ってなかったから、当然相手があかりちゃんだとも思ってなかったし」
「あはは……」
それはそうだろう。あかりが響一と出会ったのは、奏一が急用で行けなくなったという理由でmoharaの予約を響一に譲ったことがきっかけだ。それまでは知り合いでも何でもなかったのだから、二人の結婚話に一番驚いたのは間違いなく奏一に違いない。
――ということは、やはり『契約結婚』の件は奏一も知らないのだろう。今後も余計なことは口にしない方が良さそうだ。
「二人の新婚さんぶりは、俺も見てて楽しいよ」
「えー? 奏一さんだって新婚さんじゃないですか?」
あかりの内心に気付いていないらしい奏一が、少し羨ましそうに呟く。
しかしそれを言うなら彼も一緒だ。むしろ結婚したのは奏一の方が一カ月ほど遅いのだから、彼の方がより楽しい新婚さんの時期である。
「まぁ……そうだね。兄さんが結婚したから、ようやく俺も結婚できた」
「えっ……や、やっぱり!? 入谷家の方々って、皆さんそういうの気にしますよね?」
「ん……?」
「物事の順序とか、作法とかしきたりとか……上流階級のマナーみたいな……!」
奏一がふと呟いた言葉に、あかりはさっと青ざめてしまう。