偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 明るいスタッフたちに満面の笑みで祝われ、美奈は珍しく涙を浮かべて『ありがとう……』と呟いた。

 彼女もきっと不安だったはずだ。はじめての妊娠と出産に、経営するサロンの立ち退きが重なってしまった。その状況でサロンを移転して存続するかお店を畳むかという重大な決断を迫られれば、当然心にも身体にも負担がかかる。

 雇っているスタッフに迷惑をかけたくない、癒しのサロンの店長がそれではいけないとプレッシャーを感じれば感じるほど、不安は大きくなったはずだ。

 その不安から解放され、泣きたくなるほど安堵する気持ちは全員がちゃんと理解している。

「あっ、もちろんみんなの再就職先は探すわよ? 私にできることはちゃんとするから!」
「いーですよいーですよ! お腹の赤ちゃん大事にしてください」

 とはいえいち経営者で店長でもある美奈は、やはり可愛がっているスタッフの皆が路頭に迷うことは避けたいだろう。従業員が心配しなくても大丈夫、まずは自分の身体を最優先すべきです、と説得しても中々首を縦に振ろうとしない。

 ――よって堂々巡りの様相を呈するその日の報告の場は強制的にお開きになった。

 とりあえずmoharaが置かれている状況はわかったのだ。スタッフのその後のことは追々考えるしかない。

(店長、念願の赤ちゃんだもんね。本当によかった……!)

 帰路についたあかりは、美奈の嬉しそうな顔を思い浮かべた。

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