偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

「あかりは意外と料理上手だよな」
「……意外と、ってなんですか?」

 響一が褒め言葉に余計な一言をくっつけるので、少しだけむくれてみせる。これでも一応一人暮らしの期間が長いので、自炊は一通りこなせるつもりだ。

 しかし響一はあかりに対して家庭的なイメージを持っていなかったらしい。ナイフとフォークで一口サイズに切り分けたハンバーグを見て、楽しそうに笑う。

「最初に会った時にすごい力で背中押されただろ。だからこう、なんでも力任せなイメージがあったんだよ」
「力任せって……お料理ですよ?」
「まあ、そうなんだが。真ん中に穴が開いたドーナツ型のハンバーグが出てくるんじゃないかと」

 響一が肩をふるふる震わせながら呟くので、あかりはさらにむぅっと頬を膨らませた。

「そんなわけないじゃないですか、もう!」

 確かにハンバーグを焼く時は、ひび割れを防止して火を通りやすくするために真ん中を少しへこませてから加熱する。とは言え肉の塊に貫通するほどの穴を開ける人はいないだろう。それはもう力の入れ方がどうとかいう話ではない。

 怒りの声を上げてプイっとそっぽを向くと、響一が楽しそうに笑う。 

「冗談だ。むくれるなって」

 響一はそうやってあかりをからかうが、作った食事はいつも残さず食べてくれる。ハンバーグだけではなく、他の肉料理も魚料理も麵料理も好きだと言ってくれる。そしてこうして冗談を言いつつも『美味しい』と感想を伝えてくれるのだ。

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