偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
(最初より笑うようになったなぁ……)
響一の笑顔を正面から見つめて、そんな感想を抱く。
入谷 響一という人物は、弟の奏一に比べるとやや表情に乏しく、どこか冷たい印象がある。人を不快にさせる言動はないが、常に緊張しているようにどこかがピンと張り詰めている気がする。
だから怒っているわけでも悲しんでいるわけでもないと理解しているのに、一緒にいるとこちらまで妙な緊張感を覚えて背筋が伸びてしまう。
もしかしたら彼の纏う空気に影響されているのかもしれない。響一自身が常に緊張感を持っているから、あかりを含めた周囲の人もその気配を無意識に感じ取って、お互いに緊張し合っているのかもしれない。
そんな印象を抱いていたが、それがここ最近はどうだろう。
確かに皺がピシリと伸ばされた白いシャツを身に付け、黒やダークグレーの上質なスーツを纏い、モノトーンのネクタイを本物のルビーが埋め込まれたピンでしっかりと留め、綺麗に磨かれた革靴の踵を鳴らし、完璧な姿で出勤していく姿には堂々たる威厳がある。
イリヤホテル東京ルビーグレイスの総支配人に相応しい格式を感じる。