偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

(まぁ、絶対好きになっちゃいけないってことはないんだろうけど……戸籍上はちゃんと夫婦なんだし)

 あかりと響一が結婚した理由は『利害の一致』だ。交わされた契約は『お互いの結婚話の煩わしさを回避するために、婚姻関係を結ぶこと』のみ。利害関係が損なわれないことだけが条件で、それ以外の部分はかなり曖昧だ。

 改めて考えてみるとかなり不思議な契約だと思う。有効期間も存在しないし、その事実を他者に伝えていいのかどうかも確認していない。

 戸籍上は立派な夫婦になったのだから不貞行為は言語道断だが、相手を好きになってしまう可能性や、相手以外の人を好きになった場合にどうするのかも決めていない。

 決めていないのだから、自由にしていいとも解釈できる。もちろんそれはあかりだけではなく、響一にも言えることだ。

「……響一さん、好きな人っていないんですか?」

 一瞬、聞かない方がいいかとも思った。日々忙しそうに職場と自宅を往復する響一には他の女性と逢瀬をしている時間などないはずだから、聞くだけ無意味な質問だ。それにあかり自身、その答えを聞きたくなかった。

 けれどあかりが響一のことを好きになってしまったように、彼も誰かを好きになる可能性がある。響一が一生恋をしないだなんて、そんなあかりにとって都合のいいことがずっと続くはずはない。いつかそんな日もやって来ることだろう。

「……は? どういう意味だ?」
「だって私たち、結局契約書は作りませんでしたけど、契約結婚ですから」

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