偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

「……あかり」
「や……っ、待って、響一さん」

 怒っている。その目が強くあかりの心を搦め取ろうとするので、そこからどうにか逃れようと身を捩る。だがその行動がかえって響一の嫉妬心に火をつけたらしい。

 握り込まれていた手に更なる力が込められる。ぐぐ、と音が聞こえるぐらいに手を繋がれ、そのまま身体の距離も近付く。

「刻みつけてやる。――あかりは俺のものだ」
「や、や……!」
「相手の男のことも調べさせてもらう。俺の妻に手を出したことを後悔させてやる」
「ちが……っ、響一さ、ん……ちがう」

 響一は盛大な勘違いをしている。あかりが浮気をしているなどというありえない誤解をしている。

 隠し事をしていたのは事実だが、あかりが隠していたのは職場が無くなり、再就職先を探しているということ。決して響一以外の相手がいるわけではないのだ。

 そう訴えたいけれど、響一はあかりの話を聞いてくれない。あかりが好いている相手は響一しかいないのに、響一とこの先も一緒にいたいからこそ、一生懸命に次の職場を探しているのに……

「ちがうの、響一さん。あのね……」
「……庇うのか」
「……え?」
「庇っても無駄だぞ。俺からあかりを奪おうとした報いは必ず受けてもらう」

 響一はあかりの話に聞く耳を持ってくれない。話す隙さえ与えてくれない。鋭い言葉と一方的な感情をぶつけ、あかりに本当の理由の説明さえさせてくれない。

< 70 / 108 >

この作品をシェア

pagetop