偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 このまま喧嘩違いをしたら、もともと通い合っていない心に加えて身体まで離れてしまう気がする。あかりが自分の気持ちを伝える前に、響一に『もういい』と突き放されてしまう気がしてしまう。そう思ったら自然と涙が零れてきた。

「……泣くなよ。何が何でも引き離してやるつもりなのに……あかりに泣かれたら、決心が揺らぐだろ」

 ぽろぽろ……と落ちてくる雫を見た瞬間、響一の目から怒りの気配が消えた。ソファに押さえつけられていた手が解放され、身体の距離も少しだけ離れる。きっとあかりを泣かせてしまったことを後悔したのだろう。

 けれどだからと言って諦めた訳ではない。どんな手段を使っててでもあかりと相手を別れさせる、と口にする。困惑と焦りの表情を浮かべながらも、あかりの相手は自分だけだ、と口にする。

「嫌だと泣かれたら……どうしても俺じゃない奴を選びたいと言われたら、俺はどうすればいいんだ……?」
「だから、ちがうの。……私、浮気なんてしてない」

 響一の葛藤に、ふるふると首を振る。

 浮気なんてしていない。それは響一の勘違いだとはっきりとした口調で宣言すると、響一が不可解な主張を耳にしたように眉を寄せる。

「違う? なら誰と連絡取ってるんだ?」

 その表情のまま、不機嫌な声を発する。

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