偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

「……本当に浮気じゃないんだな?」
「違いますよ。そんなことしません。……私には、響一さんがいます」

 響一はあかりが口籠るとそれだけで不安になるようだ。先ほどと同じような事を訊ねられたのでもう一度声に出して宣言すると、響一が珍しく嬉しそうな顔をした。

 その表情は恥ずかしがっているようにも照れているようにも見えて、なんだかくすぐったく感じてしまう。ただの契約結婚だと思っていたのに、響一が意外にもあかりに興味を持っていたことを知ってしまう。

「もう、俺に隠し事はするな」
「はい」

 身体をこちらに向けて、頬を撫でながら今一度確認する言葉に、こくんと顎を引く。もう秘密は作らないと誓うと、今度は先ほどのような一方的な激しい口付けではなく、優しく唇を重ねられた。

 そのままソファの上に押し倒され、じっと瞳を覗き込まれる。

「抱いてもいいだろ? 夫婦、だもんな?」
「……いいですよ。でも、優しくして下さい」

 そう言って彼の首に腕を伸ばすと、今度は正面から抱きしめられた。さらにそのまま唇を奪われ、そこからゆっくりと深さを増していくキスに身を委ねる。

 それは優しくて、甘くて、少しだけ恥ずかしくなってしまうような口付け。

 ふたりの勘違いをほどいてお互いの気持ちを認め合う、仲直りのキスだった。

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