偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 そしてそれは響一も同じらしい。

「惚れた相手に他に好きな奴が出来たら、誰だって焦るだろ」
「……惚れた?」

 ぼそっと呟いた言葉に驚いたせいで、時間が止まったように錯覚する。ぱちぱちと瞬きをして、隣に腰を落ち着けた響一の横顔をじっと見つめてしまう。

 彼もそんな視線に気が付いたらしい。こちらを振り返ってあかりの表情を確認すると、彼も不思議そうな顔をする。

「セックスは好きな相手としかしないんだろ? 俺だって同じだ」
「え……、と……?」
「俺はあかりが気に入った。好きになったから結婚しようと言ったんだ」
「えぇ……?」

 響一が真面目な声音で信じられない事ばかり呟くので、つい驚愕の声を零してしまう。

「好きって……? だって私、響一さんとはあの日はじめて会ったのに……?」
「そうだが……何か問題あるか?」

 この家に来て一番最初に身体を求められたとき、あかりは響一に『こういうことは好きな人とした方がいいと思います』と告げた。その言葉を聞いた響一はあかりの言葉を笑って流した。

 けれど彼はあの時からすでにあかりに興味があったのだという。それどころか、最初にあった日から好いていたのだという。

 惚れた相手だから結婚したいと口にしたという。だがそんな素振りなんて、感じたことはなかった。

 しかし時間は関係ない。惹かれて好きになることの何が悪い? 響一にそう聞かれているように思えて、口籠ってしまう。あかりは響一に好かれるような特別なものは、何も持っていないのに。

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