夕立のあとには……
彼らを見送ると、飛鳥は改めて言った。

「日和、どうした? 何があった?」

でも、言えない。

飛鳥にいじめられてることは知られたくない。

「ゆ、夕立に降られたのよ」

私は苦し紛れに誰でも分かる下手な嘘をついた。

「は!?」

一瞬、きょとんとした飛鳥は、狐につままれたように空を見上げる。

遠くに黒い雲は見えるものの、私たちの頭上には、真っ青な空が広がり、ほうきで掃いたような薄い雲があるだけだった。

「夕立のわけないだろ! ちゃんと俺の顔を見て答えろよ」

そんなこと言われても、言えない。

「ほんとに何でもないの。気にしないで」

私は顔を上げて、私を覗き込む飛鳥と目を合わせた。

私の目を見た飛鳥は、ふぅっと息を吐くと、私の濡れた髪をくしゃっと撫でた。

「ちょっと待ってろ」

そう言うと、飛鳥はサブバッグから綺麗なネイビーのタオルを取り出した。

「これ、まだ使ってないやつだから」

そう言うと、私の頭に被せてガシガシと拭き始める。

「ちょっ、飛鳥、痛いよ! もうちょっと優しく!」

私はそう言って、飛鳥の腕をつかむ。

すると、飛鳥はふっと笑みを浮かべて言う。

「言いたくないなら、もう聞かない。でも、そうやって顔上げてろ」

そして、今度は優しく私の髪を拭き始めた。

その横をひそひそと囁きながら、キャッキャっと声を上げて女子生徒が3人通り過ぎて行く。

恥ずかしくなった私は、そのまま1歩下がって飛鳥から距離をとった。

「日和?」

飛鳥は不思議そうな顔で私を覗き込む。

「あ、頭くらい、自分で拭けるから!」

私はそう言うと、飛鳥に背を向けて、自分で頭を拭いた。

こんな下校時刻にこんなところで飛鳥に髪を拭いてもらうなんて、一緒に登校どころの騒ぎじゃない。

髪を拭き終えた私は、タオルをたたむ。

「洗って返すから」

私がそう言ってタオルを自分のバッグに入れようとすると、飛鳥は私の手からスッとタオルを上に引き抜いた。

「ちょっ、飛鳥!」

私は手を伸ばすけれど、私より頭一つ大きい飛鳥が挙げた手には届かない。

「今さら、何、遠慮してんだよ。母さんが日和の髪を拭いたタオルを洗うのを迷惑がるとでも思ってんの?」

そりゃ、えっちゃんがそんなこと思うわけないのは分かってるけど。

えっちゃんっていうのは、飛鳥のお母さん。

子供の頃からずっと一緒に過ごした私たちは、母たちがえっちゃん、さっちゃんと呼び合うのを聞いて育ち、そのまま私は飛鳥のお母さんをえっちゃんと呼ぶし、飛鳥は、私の母をさっちゃんと呼ぶ。

「そうだけど、やっぱりこれは私が使ったんだから」

そう言って手を伸ばしてジャンプするけど、全然届かない。

「ほら、無理だって。諦めて帰るぞ」

飛鳥は私のおでこをぐいっと押して私を遠ざけると、そのまま片手でタオルをバッグに押し込んだ。

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