大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
一斗(いっと)さんのこと……ですか? はい、十升(はすみくん)と区別するためにずっと……彼のお兄さんのことはお名前で呼ばせて頂いています。――子供のころからそうなので」

 日織(ひおり)が「それが何か?」と言いたげなキョトンとした顔で自分を見上げてきて。修太郎は思わず溜め息を落としたくなるのを必死でこらえた。

 百歩譲って日織があの〝和装眼鏡男〟のことを下の名で呼ぶのは許すとしよう。だが、問題は――。

「まさかとは思いますが一斗さんとやらも貴女のことを――」

 ソファに腰掛けたままの日織の前にスッとひざまずくと、修太郎は目線を日織のそれと合わせるようにして問いかけた。

 日織は一瞬だけそんな修太郎の様子に息を呑んでから「えっと……ひ、〝日織ちゃん〟って呼ばれていますけど……ダメですか?」と眉根を寄せる。

 修太郎は間髪入れずに「駄目に決まっているでしょう!」と吐き捨てて、日織の肩をつかんでしまっていた。
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