大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「理人っ」

 修太郎が、これ以上はあまり日織(ひおり)に飲ませたがっていないことを察した葵咲(きさき)が、すぐ横に座る理人をいさめたけれど後の祭り。

 実際理人だって修太郎の気持ちに気づいていないわけはないだろうに、と不思議に思いながら恋人を見つめた葵咲だ。


「僕は……葵咲の将来を縛る足枷(あしかせ)になりたくないなと思っています。だから……僕とのことは考えない状態で、葵咲には自分のなりたいものになって欲しいと思っているんです。――彼女がちゃんと地に足を付けられたら、その時こそは葵咲を離すつもりはありません。それが僕が考える〝ちゃんと〟の意味です」

 理人がまるで酒の力を借りたから、と言う(てい)で注がれたばかりの日本酒で口を湿らせながら一気に言って。

 葵咲はそんな理人を、驚いたように瞳を見開いて見遣った。

「理人……」

 葵咲はハッキリと、恋人からこんな風に口に出してその真意を言われたことがなかったのかもしれない。

 葵咲の様子を見てそう思った修太郎だ。

「ききちゃん。ずっと知りたがってました……。ちゃんと、の意味」

 ややしてポツンと日織がつぶやいて。

 修太郎はそんな日織を見て〝だから日織さんはそれを執拗に聞き出そうとなさっていらしたのか〟と思い至った。

「先に入籍や結婚をしてしまったら……ききちゃんは〝ちゃんと〟将来のことを考えられなくなってしまうものでしょうか?」

 日織がポツンとつぶやいて……修太郎は胸の奥にチクリとした痛みを感じずにはいられない。

 それは、そのまま自分と日織の関係性にも当てはまるように思えたから。

 自分が入籍や結婚を急いだことで、日織の人生は狭まったりしていないだろうか。

 そう思ってしまった修太郎だ。
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