大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 だから、余計に理人が何と答えるのかが気になって、つい動きを止めて聞き入ってしまう。


「……どうでしょうね。実際のところは僕にもよく分かりません」

 だが、理人が返してきた言葉は、修太郎が思っていたほど自信に満ち溢れたものではなかったから。

 何だか拍子抜けしてしまう。

「えっ。それはどういう……?」

 そうしてそれは、理人に質問を投げかけた日織(ひおり)本人も同じだったようで。

 思わずといった調子でほんのちょっと身を乗り出すようにして、理人に詰め寄った。


***


「……結局のところ人によりけり、場合によりけりだと思うから、でしょうか」

 理人はそんな日織をじっと見つめて。

「僕だって、〝今は〟さっき言ったみたいに思っていますけど……葵咲(きさき)と僕を取り巻く状況次第では考え方が変わることも十分に有り得るとも思っています。それに……実際――」

 そこで隣に座る葵咲の肩をそっと抱き寄せると、理人は彼女の艶やかな黒髪に唇を寄せて、しかし視線だけは修太郎と日織をしっかり見据えて続ける。

「あなた方お二人を見ていたら、――そうですね。先に逃げられないように捕まえておいて、そのあと柔軟に手綱を緩めて自由にしてもらうのも有りだな、と思う自分がいることも事実です」

 言って、今度こそ腕の中の葵咲に視線を移すと、理人は恋人の目を真正面からじっと覗き込んだ。

「ね、葵咲は僕とどうなりたい? どういう形が一番幸せ?」

「えっ……?」

 突然理人にそんなことを問いかけられた葵咲が、驚いたように瞳を見開く。

 それを見つめながら、理人は思った。

(そもそもさっきの〝ちゃんと〟にしたって、僕のひとりよがりで勝手な思い込みとも言えるんだよね)
 と。

 だから――。
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