ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


すかさず、三上が言葉を繋ぐ。

「実は、こちらの男性が妹さんを探しておられまして。駆け落ち婚だったから、妹さんとお子さんのことを心配されてましてねえ。あ、私はこちらの方の家の弁護士をしております」

三上は弁護士の肩書がある自分の名刺を出して、店主夫妻を安心させていた。

口の上手い男だから、『探している』と『白石家の弁護士』いう少しの真実だけでドラマを作り出している。
だが、友哉も非常事態だから遠慮していられない。なにより子どもの情報が欲しいのだ。
現に下町の中年夫婦は『妹を探している』という言葉に絆されてしまったようだ。
気の毒そうに友哉を見るので、彼も少し肩を落として頭を下げる。

「すみません、突然おじゃましてご迷惑でしょうがお願いします」

「そうだったんですか。でも、仲よさそうなご夫婦でしたよ」
「旦那さんも優しそうだったし、奥様もお綺麗な方で」

次第に夫婦の口も軽くなってきた。話しているうちにどんどん思い出してきたようだ。

「そうそう、奥さんがカタログで選んでいる間は、ずーっと旦那さんがお子さんを抱っこしてあやしてましたよ」
「子煩悩なパパでしたねえ」

友哉や三上には元気な頃の航大の話は辛くなるばかりだったが、店主夫婦は好意であれこれ話してくれている。

「あ、そう言えば配達先の控えが残っているわ」

夫婦が見せてくれた控えには住所と『藤本』という名だけが書かれていた。

やっと航大の恋人の住所を手に入れて、友哉は焦った。
一刻も早く子どもを確認したくて、友哉はすぐにその住所を訪ねることにした。

余りにも気持ちが逸るので、彼にしては慎重さに欠けた行動だったと言えるだろう。
従兄弟の恋人らしい女性の詳しい家庭環境を調べもせず、その住所に乗り込んだのだ。

これが、友哉と瑠佳の小さな行き違いの始まりだった。




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