ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


「いい契約ができました」
「こちらこそ、白石さんの熱意に負けましたよ」

同世代の友哉と山崎は、何度か話し合ううちに意気投合していた。
やっと契約を結ぶ話がまとまって、握手を交わせる関係になれたのだ。

計画では、友哉がアメリカやイギリスの製薬会社と契約して山崎製薬が薬を作る。
販売ルートの確保は山崎側、流通段階では白石商事が責任を持つ。
お互いに利益を生む関係になれると、ふたりは考えていた。

諏訪湖のほとりにある会社というのも、薬を作るうえで清潔なイメージがあった。

「この辺りの環境ですと、社員の方も暮らしやすいでしょうね」

レンガ造りの会社は、外観は古いが屋内は現代的でシンプルな内装だった。
ゆっくりと社長室の中を見回しながら友哉は山崎に尋ねた。

「ええ。東京から優秀な若手を集めました。まだ少数ですが、女性研究員も喜んで諏訪に来てくれましたよ」

「それは将来が楽しみですね」
「はい。日本ではどんなに優秀でも結婚や出産後に研究職を続けるのが難しいケースが多いですからね。うちはそこをカバーしていけたらと、福利厚生にも力を入れたんです」

「それは我社も見習った方がよさそうですね」

友哉も航大のいない白石商事の将来をいつも考えている。

「東京だとそうなりますよね。この辺りは地元採用での長期の雇用希望者がほとんどです。工場で研究したり薬を作ったりしているスタッフも事務方も正社員なんですよ」

「なるほど」

小さいからこそ家庭的な雰囲気の利点もあると、山崎も企業としての取り組みを話してくれる。

「ここの敷地内に保育園を誘致して、小さいお子さんを預けて仕事を続けられる環境作りから始めたんですよ」

社長室から見下ろしていると、終業時間になったからか女性社員たちがお喋りしながら中庭に出てきた。
その中でも白衣姿の女性は研究職だろう。

「だから、女性の方が多いんですね」

「ええ、数人は大手から引き抜きました。研究や分析は経験者でないと任せられませんから」



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