一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
少しして、ゆっくり目を開けると、目の前にはいるはずのない人がいた。
ぼんやりと光の中に……。
「なんだ、また夢を見てるのね……」
夢の中で呟いても、いつも相手には聞こえていないから言いたい放題だ。「いっつも自信たっぷりで、余裕の表情で……本音なんて何一つ見せなくて……」
「そう、それは悪かったな。だから『離婚届』なんて置いて出て行ったのか?」
(なに……? 今日は夢の中で会話ができてるのね……)
私が何を言っても余裕の表情で優しく笑っているだけの夢の中のあの人が、今日は返事をしてくる。
(もうすぐクリスマスだからサンタがプレゼントにこんな夢を見せてるのかしら……?)
そんなことを思って、思わず、ふふ、と笑う。
サンタからなんて、一度もプレゼントをもらったこともないくせに。
だからサンタは信じたことがなかった。
信じても信じなくても、私にはサンタは来ない。
それなら最初から信じないほうがいいと、そういうところだけやけに現実的に育った気がする。
次の瞬間、ぶにり、と頬を掴まれた感触がした。
「……あれ? ほんと変なゆめ……。ふぃんぎゃぁっ……!」
猫を踏んだのではない。我が家に猫はいない。
いや、そうではなくて……目の前に氷室鷹也、その人がいるのだ。
―――夢ではなく本物の氷室鷹也が……。