一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
 二人の近況を報告し合った後、私たちは席を立つ。

「ホテルは? 今日うちに泊っていかない?」
「すぐそこ取ってあるから大丈夫よ」
「言ってくれたら取ったのに」
「いいわよ、海外なんて来慣れてんだし。社長からリフレッシュ休暇ガッツリもぎ取ったから、パリにも寄って帰るわ」

「アハハ。相変わらず自由だなぁ」

 私は、それを聞いて思わず笑う。
 すると遥が目を細めて私を見た。

「沙穂もいいのよ、少しは自由にしても」
「私は今、幸せだし、十分だよ。……あとは早く子どもができればなって思ってるくらい」
「うん。私もはやく沙穂の子どもに会いたいわ。何かあれば言いなさい。何でも相談に乗るから」
「うん」

 私は頷いて、二人、店の外に出る。
 別れ際、遥が口を開いた。

「あとさ、なにか息抜きも大切なんじゃない? 運動とか、旅行とか……。今のうちよ、子ども出来たら忙しいだろうし」
「でも、私は今何もできてないのに、なんだか申し訳なくて」
「何言ってるの。十分頑張ってるんでしょ。聞いたわよ。寝る間も惜しんで、もう5か国語をマスターしたって」

 確かにできるようにはなったが、簡単な会話だけだ。
 城内さんが非常に厳しすぎるのもあるから、必然ともいえる。私は人より物覚えが悪いらしく、毎日必死に勉強している。

「私が物覚え悪いだけで……やっと日常会話程度だよ」
「それで十分。並みの努力じゃ1年では無理よ。あんたは自分を過小評価しすぎ」

 遥はそう言って私の背中を軽く叩く。「私、そこまで沙穂が頑張れるって思ってなかった。愛の力って偉大ねぇ」
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