一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
「嫌なんて思ったこともないです。でも私、この年になっても、一人での旅行もしたことなくて。結婚したらすぐに子どもを作って、育てて……自由はなくなるから。その前に、少しだけ冒険してみたくなったんです」
そう言って彼女はすっきりしたような表情をした。
あぁ、そうか。
この子は……家のために、会社のために、相手のために、これからも生きる。
特定の誰かを好きじゃなくても、決まった相手との結婚や子作りを簡単に受け入れる。
それが『当たり前』だと信じてきたんだ。
(なら、なんでその相手が自分じゃないんだろう)
そんなことを思った。
しかし俺は、冷静を装い、微笑んでまで見せる。
「で、冒険はどうだった? スリにあって大変だった?」
「鷹也さんに出会えたから結果オーライです」
にこっと口角を上げて微笑む彼女を見て、俺も嬉しくなって、つられて笑った。
彼女と話しているだけでずっと顔がにやけてしまっていそうで、それだけが気になった。
「それはよかった」
「本当にありがとうございます。私、あなたに会えて、無理してでもこの旅行をしてよかった」
そう言われて心が決まった。
ーーー相手が自分じゃないなら、自分を相手にすればいいんだ。
幸い、恋愛感情かどんな感情かは分からないが、彼女が俺に好感を持ってくれているのはわかった。
だから余計に……もっとじっくりと……。焦らずに。
その日は、他のどんな研究や、仕事よりも緊張していた気がする。