動いてよ、きみ
〝王の君、どこへ向かう〟
「きみと星が見たいんだ」
〝野郎と見る星に誰が喜んでワーイうれしい! って言うんだよ〟
「ぼくが言うよ、きみはぼくの中の唯一無二だ。出来損ないだけれど、でも大切な他のどこにもない唯一無二」
〝王の君、皇子、ゆっくり歩いてくれ、おれの供給が追いつかない〟
「きみ、頼むよ、この痛い煩わしさ、なんとか追い払ってくれないか」
夜。宵闇。裸足でさくさくと踏み締める草木のおと。
深い夜、何度か倒れて喘鳴を抱き締める。その度に震え、汗が噴き出し、もうだめだ、と頽れる。悪がいると抗えない。お前。お前だ。そこにいる。そこにいるお前だよ。目を剥きざまあみろと笑っている。傷を負ったたちの悪い、沈んでいろとあれほどまでに叩きのめした。
まだ足りないか。まだ足りないか。霞んだ視界、ぐらぐらと揺れる闇。必死に息をして、泣きながら明日に抗っている。
必死に走って辿り着いた、さっと開けたよるのこと。
星、満点の空はなく、薄く広くかかった雲の間からきらきらと光が散っている。物語のように、満天の空など迂闊には広がらない。物語のように、一度折れた悪が世界を牛耳ったとしても、やがて光が生を成す。ぼくは闇。きみは光。
煩わしい、煩わしい。
散れ、ひかり。いなくなれ、明日など。
すぐに薄闇に隠れた星のことを、きみは鼻で笑って慰める。
〝王の君〟
「はい」
〝お前、生きていたいか?〟
「うん、きっと」
〝きっと か〟
〝それは誰のための答えだ?〟
ぼくはもうわからなかった。
わからないけれど、わからないなりに、それでもきみと手を取った。きみは言う。ぼくに従うと。きみは嗄れた声で言う、あくまでぼくに従うと。ぼくを揺るがす何か、弱く、脆く、猛々しい。
許せないきみを退けないと決めた、それがこの心臓だったとして。
その基準はかつて、ぼくが応えたあの日の僕たちの約束だ。
「心臓の移植手術は受けないよ」
「君くん、何を言ってるの、せっかくお父さんの知り合いが手配をしてくれて、誰にでも出来ることじゃないのよ!? アメリカなんかじゃ、もう何百人の人がこの心臓を喉から手が出るほど欲しがって待ってるの、あなただから選ばれた、それをあなたは無下にしてお母さんとお父さんの言うことをどうして聞いてくれないの」
「ぼくはぼくの心臓と生きるって決めたんだ。たとえ別の原因で目が覚めなくなったとして、ドナーだって認めない」
「君くん!」
「命の取捨選択か?」