second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結


自分がどうにかしなくては・・と意気込み過ぎてやや荒い口調になってしまう。
彼女にとってこういう俺は珍しかったようで、目を見開きながら俺に再生し始めた動画を遠慮気味に差し出す。


差し出されたその動画。
俺は見えるけど、彼女は見えづらい角度。
今は彼女自身が見ないと意味がない。
だから、俺は彼女がちゃんと見える位置にスマホを持っている彼女の手を動かした。

その動画はうちの姉妹病院である名古屋南桜総合病院の産婦人科病棟で執り行われた日詠医師と臨床心理士である伶菜さん夫婦の人前結婚式の様子を映し出している。

この夫婦は随分前に入籍していたそうだが、多忙な彼らは結婚式を挙げていなかったそうだ
しかも、伶菜さんは分娩中に羊水塞栓症という非常に治療が難しい疾患を発症し、生死を彷徨った
その出産に関わったのは奥野さん、そして仮死状態で生まれてきた新生児を蘇生したのが俺

そういった様々な困難を乗り越えて、晴れて結婚式を挙げた彼ら
医師として彼らに関わった俺はもちろん嬉しい
奥野さんだって伶菜さんの主治医という立場だけなら手放しで喜んでいたはず

でも、もし彼女が今も日詠さんを想い続けているのであれば、そんな簡単な話ではない
俺が今、彼女に課しているのは、日詠さんをまだ想っているかどうかを試す、動画という名の“踏み絵”
自分でも彼女に残酷なことをしていることを自覚している


そんな残酷なことをさせられているのに、その動画を見て涙を流し始めた彼女が口にしたのは“嬉し涙”
そういう彼女を見ている俺には彼女が全然嬉しそうになんか見えない
俺の目に見えているのは喪失感からこぼれているであろう彼女の涙。


その涙によって、想い起さずにはいられなかった。

【こんな男、やめておいたほうがいい】

奥野さんに憧れている大学生だった俺が日詠さんを想い続ける彼女に言えなかったその言葉を。


【日詠さんはもう絶対にレイナを離さない。だからお前はいつまでも見物人をやってんじゃね~。女神もお前も、もう大学生じゃないんだから。】

伶菜さんを想い続け、それでも今もなお、間違いなく愛し合っている彼女と日詠さんの関係を一番近くで見ている森村からのその言葉も。

それだけではなく、

伶菜さんが分娩後、ICU(集中治療室)で生死を彷徨っていた時、彼女に付き添う日詠さんの後ろ姿を見続けることができなくなった奥野さんの目から溢れ出した涙も。


それらを想い起こさずにはいられなかった今、

『嬉し涙なんかじゃない、それは。』

その動画イコール“踏み絵”の自覚がない彼女に、俺はとうとうその自覚をさせようと決心した。


自分が奥野さんを変える
自分が彼女を幸せにする
・・・とも。


< 107 / 200 >

この作品をシェア

pagetop