second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
南桜病院から城北病院に異動してきて1年が経過した一昨年。
以前から産婦人科領域でも心理専門家による患者さんのケアを積極的に行いたいと考えていたあたし。
病院上層部にそう訴えかけても、経費の問題から、新たに臨床心理士を雇用する気配は全くなかった。
それを叶えてくれる臨床心理士を院外で探していたものの、人事権のないただの産婦人科医師であるあたしに力を貸してくれる臨床心理士は見つからなかった。
それを聞きつけたのは、あたしに声をかけてきた目の前にいる寺島部長。
心療内科お抱えの臨床心理士を産婦人科にも派遣してもいいという条件であたしに近付いてきた。
「うちの臨床心理士、産婦人科領域でも優秀でしょ?」
『・・・ええ、とても。』
「奥野先生の枕営業という英断が今に繋がっているってわけだ。」
『・・・・・・』
「お互いにwin-winの関係だったろ?途中で邪魔が入ったけれど、これからもその関係は変わらない。俺はもうあんなヘマはしないし、自分のおもちゃを横取りされるのは気分悪いしね。」
枕営業という英断とか
win-winの関係とか
あんなヘマとか
さすがにそれらは昼間の病院のカフェテリアで話すべき内容ではない
しかもあんなヘマ・・・イコール、彼と彼の奥様とあたしがホテルの前で鉢合わせしたという修羅場
彼の浮気を疑った奥様が探偵を雇い、彼だけでなくあたしという存在も追跡されていたらしく、その成果が修羅場という形となったんだから・・・
懲りていないだけでなく、もうあんなヘマはしないなんて
よく言えたもんだ
それに自分のおもちゃってあたしのことなの?
もしかして、橘クンとの車内キスを目撃されての、彼の今のこの行動なの?
何、それ・・・
おもちゃを横取りされるの気分悪いって
どれだけ子供なのよ・・・
ふつふつと怒りが込み上げてきている自分が、この後も何を言い出すかわからない寺川先生とこのまま、カフェテリアという公共の場所で話しているわけにはいかないと思ったあたしは
『この後も外来診察予定なので、失礼致します。』
まだ食べ始めたばかりのカレーライスが載っているトレイを両手で持って立ち上がった。
その時、後方から聞こえてきた声。
「先生~。あたしの杏仁豆腐、食べて下さい!あたし、今、ダイエット中なんで。」
その甲高い声にあたしはつい振り返ってしまう。
その声の主はER(救命救急センター)の看護師ユニホームであるワインレッドのスクラブを着ている若い女性看護師らしきスタッフ。
彼女もこちらを振り返ってちらりと見ながら白衣姿の男性の袖を引っ張っている。
「いつも食べてくれるじゃないですか~!」
「・・・・・・・」
相変わらず耳につく声で訴えかけている彼女が隣に居ても無言で微動だにしないその人は
「も~う。橘センセ、早くもらって下さい!」
あたしが顔を合わせることができないままでいる人・・・橘クンだった。