second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結



さっきまで語気を荒げていた寺川部長の勢いが明らかに弱くなる。
無理もない

斎藤名誉教授は臨床心理士の世界で知らない者はいない人
神様みたいな人
・・・と同じく臨床心理士の伶菜ちゃんから聞いている


臨床心理士と一緒に仕事をしているはずの心療内科医師の寺川部長だって知らないはずはない人
その人がうちの病院のフォローについて下さるということは、間違いなく臨床心理の質が向上する
それはイコール、心療内科の診療の質の向上の可能性も秘めているということ

けれども、臨床心理と接点がなさそうな橘クンがなぜ斎藤名誉教授とやりとりがあったんだろう?


「それでもまだ、産婦人科から臨床心理士を中途半端な形で撤退させますか?」

「・・・・・・・」

「中途半端な形で撤退させるということは、患者さんを途中で見捨てることなのではないでしょうか?」

「・・・・・・・」

「寺川部長、本当はあなたも正しいことを選ぶことができる人だと僕は信じています。」

「・・・・・・・」


寺川部長は淀みなく冷静に説明と説得を続けた橘クンの前でとうとう黙ってしまった。

それからしばらくの間、静かな時間が流れ、お互いの瞳の奥を探り合っている。
あたしもただそんなふたりを黙って見守ることしかできない。

けれども、

「みや・・・いや、奥野クン。」

『は、はい・・・・』

静かな空気がとうとう動いた。
あたしのほうに風向きを変えて。


「またキミと関係を・・・と思ったのは、キミに近付いた橘クンに渡したくなかった・・・彼はもっといい加減な男だと思っていたから。」

『・・・寺川部長・・・』

「ただ女性スタッフにチヤホヤされているだけの男に、医師として熱意を持って真面目に従事しているキミがダメにされるのを見たくなかった・・・でも、それは誤解だったようだな。」


久しぶりに目にした寺川部長の穏やかな表情。
あたしが産婦人科の患者さんの心理ケアについて初めて彼に相談に行った時を想い出すようなそんな顔。


「多分、この男・・・橘クンはキミのために周産期センター長を引き受けた。」

『えっ?』

「キミの、産婦人科の患者さんの心のケアを充実させたいという熱意を、彼が周産期という、産婦人科も小児科も関与する領域で叶えようとしてくれているんだ。」

『あたしのため・・・に・・・?』

「そうでなきゃ、ただでさえNICUで忙しいのに、周産期センター長を兼務するなんてハードワークはしないだろう。俺も管理職だからわかるしな。」


心療内科医師だからわかる
出産、育児という一大イベントでココロのバランスを失う人もちゃんと専門家が支えてあげるべきだという考えが・・・
心療内科部長だからわかる
管理職だからこその苦労や葛藤というものが・・・


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