second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
『着物、選ばなきゃ。でもすごく種類が多いな。』
ようやくやる気になったあたし。
今いる衣裳部屋には色とりどりの着物が数えきれないぐらい取り揃えられていて、どこから見ればいいのか戸惑う。
橘クンを待たせるわけにもいかないから早く選ばなきゃいけない。
『あの・・・あたしに似合いそうな着物・・・あります?』
「もちろんありますよ!!!お客様も和風美人で凛とした美しさがありますから、伊勢型紙模様のものがお似合いになると思います。一度、御覧になりますか?」
『あっ、はい。』
たくさんある着物の中から店員さんが選んできてくれたのは、紺色ベースの生地に小さな花模様がびっしりと散りばめられた切り絵のようなデザイン。
かわいらしいよりも美しいという形容詞が合うそれ。
一目でこれがいいと思ったあたしは、
『これ、着たいです。』
あたしらしくなく、珍しく即決した。
「髪もセットしますね。」
『髪、短めなんですが、それでもですか?』
「ええ。お客様の襟足の長さならまとめたほうが似合うと思いますから。」
『じゃあ、お願いします。』
普段、“奥野先生、お願いします”と言われることがほとんどな医師である自分が貸衣装の専門家にお願いしている今がとても新鮮で。
いつもは手術室前で手術帽から出てしまっている後れ毛を直すためにじっと鏡を見る日々であるあたし。
そんなあたしが手際良く着物を着せてもらった自分が鏡の前で髪飾りも付けて整えてもらい、いつもと違う自分に変わっていく様子も新鮮だった。
「小物も、草履もばっちりお似合いです!お連れ様も見惚れること間違いないでしょう~!それでは行ってらっしゃい!!!!」
あたしは完璧な仕事をしてくれた貸衣装のプロからのその言葉に背中を押され、
気分よく衣装部屋から出て、橘クンが待っていてくれるであろうお店の玄関へ向かった。
「奥野さん!」
『あっ、ごめん、お待たせしちゃって・・・・って、橘くん?!』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
お互い言葉を失ったままじっと見つめ合ってしまう。
目の前の橘クンは、黒の着物に濃緑の羽織姿。
きちっとした襟元が逆にセクシーに見えてしまって目を逸らそうとしたら、先に彼に目を逸らされてしまう。
伏し目がちに横を向いた彼の横顔は更にセクシーさを増していて、今度こそあたしも彼から目を逸らさずにはいられなかった。
こんな状況がどれぐらい続いたんだろう
「奥野さん、行きましょう。」
『あっ、うん・・・って、橘クン?!』
珍しく少し照れくさそうな顔をした彼が、お財布やスマホの入った巾着を持つ右手とは反対側であるあたしの左手をきゅっと掴み歩き始めた。