second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
あたしの冷えた指が彼の大きくて温かい手にくるまれている。
お互いの歩くペースがわかり始めた頃に、彼の手があたしの指を掴んだままくるりと回り、手を繋ぐ格好となっていく。
彼のそういう仕草にもドキリとしたあたしの歩くペースが明らかに遅くなってしまって。
「手を繋ぐの・・ダメでした?」
『う・・ううん。大丈夫。でもあたし、手、冷たいよ?』
「雅さんの手が冷たくても、俺の手が熱いので丁度いいです。」
『・・みや・・び・・』
聞きなれない“雅(みやび)”という自分の名前
現職場では聞いたことはなく、前職場で一緒にいる機会が多かった日詠クンにもそう呼ばれたことはなかった
強いて言えば、両親、そして、夜だけを共にする相手からベッドの中でだけ耳元で囁かれたぐらい
小学生の頃、授業で自分の名前の漢字の意味について調べたことがあった
【雅】とは「洗練された」とか「礼儀正しさ」と解釈されるらしいけれど、時には「甘く愛する人」と解釈されることもあるとあって、女の子らしい意味もあるんだってなんだか照れ臭がったことを想い出す
家族でも、夜の相手でもない、赤の他人である橘クンに
こんな昼間からさらっと自分の名前を呼ばれ、さすがに平常心ではいられないあたし
叶わない恋心を紛らわすために、たいして好きでもない相手とカラダを交わすような陰の世界にいるあたしなんか、いつでも注目され陽の世界にいる病院イチのモテ男の彼には釣り合わない
そう思い続けた自分なのに、少しぐらいはそんなことを考えなくてもいいのかもしれないなんて勘違いしそう
それぐらい心がじんわりとしている自分がいて。
「断りもなく、名前で呼んで・・すみません。」
『・・・ううん・・・なんか嬉しいの・・・』
申し訳なさそうに謝る彼に、今、自分の心の中にある想いをこぼしてしまった。
『あたしも・・・橘クンのこと、名前で呼んでいい?』
あたしを名前で呼んで申し訳ないと思わせているなら、あたしも彼を名前で呼べばいいのかも・・なんて大胆な考えまで。
さっきはあたしの歩くペースが遅くなったのに、今度は橘クンのほうが歩くスピードが下がって、とうとう立ち止まってしまった。
彼を名前で呼びたいって、やっぱり慣れ慣れしかったのかなと思い始めた頃、
「・・・恭矢(きょうや)です。俺の下の名前。」
『・・・きょう・・や・・クン?』
「ええ。恭矢の恭はうやうやしいとも読む恭で、矢は弓矢の矢で、恭矢です。」