second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
恭しい・・・うやうやしいとも読む【恭】
あたしの小学生時代の同級生で恭子ちゃんという女の子がいて
自分の名前の漢字の意味の授業で、その“恭”の字が「礼儀正しく丁寧」という意味があるって自慢していたのを覚えてる
『あたしと一緒だ・・・』
「えっ?奥野さん・・・いや、雅さんと?」
『うん。漢字の意味・・・・礼儀正しいって意味が。』
「・・・・・」
あたしがうっかりそう呟いたせいか黙ってしまった橘クン。
しばらく下を向いて何かを考えているようだったけれど、彼は前を向いたと同時に握ったままだったあたしの左手を更に強くぎゅっと握った。
「恭には、大切にするっていう意味もあります。だから・・・・」
『・・・だから・・・?』
「一緒に・・一緒に行きましょう。雅さん。」
『・・・う、うん。わかった。』
口ではわかったと言いながらも、彼が言う大切にするという言葉と一緒に行くという言葉の繋がりが今ひとつピンときていなかったあたし。
けれども、彼があたしの手を握る手からも頼もしさを感じたあたしは彼に手を引かれるがまま再び一緒に歩き始めた。
「本当は外宮から内宮の順で参拝するのが正しい順番なんですけどね・・・」
『今いるところに近いのはどっちだっけ?』
「内宮ですね。天照大御神が祀られているんですよね。外宮よりも内宮のほうが歴史が長いそうです。」
『橘クン、詳しいね。』
「何度も来ていて、調べたことがあるんです。でも俺の知識なんてまだまだ入門編ってとこです。」
『でも勉強になるよ~。』
彼が言う通り、伊勢神宮には内宮と外宮がある。
今いるところはおかげ横丁で、その近くにあるのは伊勢神宮の内宮のほう。
大きくて威厳のある鳥居のすぐ先には橋がかかっていて、その先が内宮らしい。
鳥居をくぐる前でも日常とかかけ離れた静寂な空気が感じられる。
今から神聖な場所へ向かうということもあって、今のいままで繋いでいた彼とあたしの手は自然と離れた。
そして橋を渡ろうと一歩前へ進もうとした時、橘クンと足並みが揃っていないことを感じたあたし。
ふと横を向くと、彼は内宮のある前方をじっと見据えてから深く一礼をした。
彼のその立ち振る舞いは不自然さがまるでなく、自然で美しくて見ているこっちが清々しい気持ちになるぐらい。
あたしも彼のその姿勢を見習って、鳥居の前で深々と一礼してからそこをくぐった。