second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
『また森村に叱られるだろ、俺。』
俺は、右手に焼きそばパン、左手に皮を剥いたバナナを手にしたいつもの森村を想像して顔をしかめ、彼女の唇から目を反らすことでその衝動から逃げた。
『あっ、いけね。』
そんなことをしているうちに、車間距離がほぼない状態で停車しているはずの前のクルマとの距離が少し空いていて。
俺は急いでアクセルを踏んで、ようやく再び動き出したクルマで伊勢を目指した。
『正月の格好・・・か・・・』
FMラジオの音が小さくしたままであったせいで相変わらず運転以外にすることがない俺は、眠りに落ちる前の彼女の言動を想い起こす。
『そういえば、おかげ横丁にレンタル着物、あった・・・』
幼少時より、お正月は伊勢参りが恒例だった橘家。
イベント好きな姉が初詣は着物を着たい!とほぼ毎年、無理矢理、家族全員に着物姿になるよう命じる
その流れで、両親と俺は姉に伊勢神宮内宮近くの貸衣裳店へ連れて行かれる。
『店、多分、まだ営業しているよな。』
丁度、正月に休暇を取れた去年もそこの店へ姉に連れていかれて着物を着た
面倒臭いなんて想いながらも、我が家の主導権を握っているらしい姉には逆らえず、引き摺られるようにその店へ連れていかれたのだ
でも、姉とではなく奥野さんと一緒にお伊勢参りに来た今年
今年は自ら前向きにそこへ彼女を連れていき、一緒に正月らしい格好をしように誘ってみようか
『そうと決まったら、早く伊勢に着かないと。』
俺はたった今、もうひとつ増えた予定を遂行できるようにするために、ハンドルをグッと握って少しだけ強くアクセルを踏んだ。
『とうとうゴールに近付いてきた。』
その後も何度も渋滞を繰り返しながら、一般道に入り車速が下がっても助手席で眠る彼女は起きる気配がなかった。
しかし、駐車場に入り、車をバック駐車させたタイミングで彼女はとうとう目を覚ました。
慌ててアイマスクを外して、勢いよくカラダを起こした彼女。
いつもの業務中では決してみられないような周りをキョロキョロ見回す彼女の反応につい自分の口元が緩んでしまう。
伊勢神宮に着いたんだ!と驚くかと思ったら、彼女からはまさかの熱田神宮に着いた発言。
熱田神宮は名古屋市内にある
同じ名古屋市内にある城北病院からもそんなに遠くはない
確かに俺は神宮としかヒントを言ってなかった
でも、せっかくだから、初詣先がどこかを探ることをまた楽しんでもらおう
そう思った俺は、“行けばわかる”とやや混乱気味な彼女を誘って伊勢神宮内宮に向かって一緒に歩き始めた。