second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
数えきれないぐらいの多くの参拝客帰りらしき人達とすれ違う。
すれ違いざまに振り向いてまで彼女を凝視する男性も何人もいる。
無理もない。
隣で歩く俺ですら、着物姿の彼女が全身から醸し出す大人の色気に溶かされそうになっているから。
それでもやっぱり今は“自分だけの女性”で居てほしい・・・
そんな独占欲の塊になりかけている俺は、勢いだけで手に取った彼女の手をもっとしっかりと握る。
自分の温かい手で彼女の冷たい手を直に感じる
そのせいで俺の全身はどんどん熱を帯びていく
どうにかして彼女のその手を温めてやりたい
その役割は他の誰にもさせたくない
手を繋ぐという、幼子でもできるその行為がこんなにも甘く尊い行為だなんて知らなかった
隣を歩いてくれている彼女は今のこの状況をどう想っているのだろう?
そんなことまで思い始めていると、明らかに彼女の歩くスピードが遅くなっていた。
『・・・・・・・』
クリスマスイヴ同様、勝手に手を繋ぐとか、また“押しすぎ”てしまったか?
やっぱり暴走気味な俺は彼女にとっての“押しすぎ”の度合いをそろそろ本人から教えてもらったほうが良さそうだ
『手を繋ぐの・・ダメでした?』
「う・・ううん。大丈夫。でもあたし、手、冷たいよ?」
彼女からの“大丈夫”返答に俺はひと安心
手の冷たさをも気遣う彼女に自分も安心させてあげたい
『雅さんの手が冷たくても、俺の手が熱いので丁度いいです。』
「・・みや・・び・・」
安心させてあげたいと逸る心のせいで、俺は奥野さんと言うべきところを、彼女の下の名前である雅さんと呼んでしまった。
学生時代、彼女のその名前を知り、優雅なその響きと彼女の持つ凛とした雰囲気が合っていると感じた俺はこっそりと“雅さん”と呟いていた
彼女が南桜病院からうちの病院に異動してきてからは、他のスタッフと同様に奥野さんと呼んでいた
しかし、彼女がふと笑った時など自分の心が揺れ動いた時にはつい雅さんと呼びそうになったことがある
今もそう
手を繋ぐことを受け入れてもらい安心させてもらった俺が今度は彼女を安心させてあげたい
そっちに気が向いてしまったせいで
“雅さん”が勝手に口から出てしまった
だから、奥野さんが驚いても無理はない
もう自分でも自分が制御できなくなり始めている気がする
だったらもう奥野さん本人に“押しすぎの度合い”を直接教えてもらうのではなく、先に謝ったほうがいい
『断りもなく、名前で呼んで・・すみません。』
そう思って彼女に謝ったのに彼女からの返答はこうだった。