鬼弁護士は私を甘やかして離さない
あの日から咲坂先生は時々私をご飯に誘うようになった。
時にはお好み焼きだったり、お寿司だったり、変わった居酒屋だったりした。
その都度お金を払おうとするが「俺が食べたいものに付き合わせてるだけだから」と言って受け取ってくれなかった。
なので私は時々お昼におにぎりやサンドウィッチを差し入れするようになった。
弁護士の仕事はデスクワークや裁判所に行くだけでなく、外出も多い。
なので合間に食べれるようなものを作った時にお裾分けしてる。
気ままに私の作った日に渡すことが多かった。
事務所で手渡すのも恥ずかしく、そんな時には早めに出勤して椅子の上に目立たないように置いていた。
車で移動の時に食べたりしてくれるようでこの前食べに行った時にそう話していた。
迷惑でないかと尋ねると、買いに行くのが面倒で食べない時もたくさんあるらしく重宝していると言われた。
咲坂先生は昼ごはんよりも仕事なのね。
凄いなぁ。
たしかに親しくなったとはいえ仕事では鬼のようで未だに「小林ー!」と怒鳴られている。そんなにミスが多いと思うなら他のパラリーガルに頼めばいいのに、と思うけど咲坂先生は平等に仕事を振ってくる。
仕事中の咲坂先生を見てると一緒に仕事をしたくなくなるし、食欲も減退するけど、プライベートの先生は話し上手でとても楽しい。いろんなことを教えてくれ私の世界が広がる気がした。
1週間ぶりに今日は鉄板焼きに連れて来られた。
咲坂先生から「今日は肉の日だ」とメッセージが来た。私が暇で断らないことをよく知っている。
でもそんなちょっと強引なところも嫌いじゃなかった。
カウンターでシェフに焼いてもらう鉄板焼きはテレビでしか見たことがなく、とても緊張した。
「小林、確か明日は友達の結婚式だったよな。スピーチは考え終わってるのか?」
「なんとなくは……」
「ほら、ここでリハーサルしてみろよ」
「嫌ですよ。先生に聞かせたらダメ出しされます」
「俺に聞かせておいた方が安心だろ」
ま、そう言われるとそうかもしれないけど……。でも恥ずかしい。
「ほら、ほら」
私はスマホを取り出した。
「原稿はこれです。口に出さずに読んでください。感想はマイルドで教えてください。いつもの鬼のようなダメ出しはやめてくださいね」
スマホを受け取るとスクロールしながら読んでいった。
こんな優しい俺を鬼だなんて、失礼なやつだなと小さな声で呟いているのが聞こえる。
咲坂先生は仕事の鬼だし、周りに対しても鬼なのに無自覚?
そう思うとクスッと笑ってしまった。
「なかなかいいと思うぞ。お前と花嫁のエピソードが簡潔に書かれているし、聞いててとてもいい関係なんだということがわかる。最初と最後に親族へのお祝いの言葉を入れたら完成だな」
「良かった〜、ホッとしました。ここでダメ出しされたら徹夜で考え直すところでした」
先生は笑いながらスマホを返してくれた。
「小林は俺のことをどれだけの男だと思ってるんだよ」
「正直鬼だと思ってます。こうしてプライベートを知らなければ恐ろしい人間だと思っていました。テレビの顔はイケメンなのに事務所ではいつも眉間に皺を寄せて怒鳴ってますもんね。でも話してみてプライベートでは楽しくて物知りで話し上手で気さくでいい人だと思いましたよ」
「最初に声かけた時はお前の顔ひきつってたもんな。それがまたむかついて強引に連れて行ったんだけどな」
「あの時は疲れてたのにますます疲れそうで心底行きたくなかったのにタクシーに連れ込まれた時は鬼の餌食になったと思いました」
「お前、それは随分とひどい言いようだな。それに仕事の時と違ってだいぶ俺に言い返すようになったよな」
「すみません」
言い過ぎたかも、と思い謝ると笑いながら頭をポンポンされる。
「今のままの方がいいよ」
ちょっとこの仕草にドキッとした。
咲坂先生の手、大きいな。
「元彼も明日来るんじゃないの?大丈夫か?」
「……どうでしょうか。3年ぶりなんです。友達として会話できるか心配、かな」
「話さなければいいんだ。ただ、お前は友達のお祝いに行ってるだけなんだから」
「そうですよね……」
私が不安に駆られているとまた頭をポンポンされた。
「大丈夫だ。俺が迎えに行ってやるよ」
「咲坂先生が?」
「あぁ。ダメか?彼氏なったらダメか?」
彼氏??
私はその言葉に顔を上げた。
「そうだよ。俺がお前の彼氏になったらダメか?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔してるけど、俺がお前の男になるのはダメか、と聞いてる」
「せ、先生?冗談でしょ?」
「冗談で言うわけないだろ。お前が元彼と別れた理由は分かってる。俺は弁護士だ。嘘は嫌いだし、誠実でありたいと思っている。お前に嘘はつかないよ。冗談で付き合うかなんて言わない」
先生からこんなことを言われるなんて驚いた。
ファンから手紙が届くくらい名前の知れた有名弁護士で、見た目も良くて女の人なら選びたい放題に見えるのに私と付き合いたい?
「咲坂先生なら引くて数多でしょう。私には恐れ多いです」
「引くて数多な訳ないだろ。毎日仕事に振り回されてるよ。小林の働きぶりも気遣いも知ってる。おっちょこちょいだけど前向きなのも分かってる。プライベートではよく食べ、よく喋る気の合うやつだと思ってる。そんなお前だから
俺はもっとそばにいたいと思った」
「先生……」
「少しも考えられない?」
「元彼と別れてずっと仕事だけでした。でもそんな中、先生が私を掬い上げてくれたんです。
先生とこうやって食事に行くようになってプライベートで笑うことが多くなりました。先生は仕事だと本当に怖いけど、それだけじゃないって分かって、それを自分だけが知ってると思うとドキドキしてました」
咲坂先生は頷いて私の目を見ている。
「先生は嘘をつかない??私に隠し事しない?私の母は父に裏切られ、私を非嫡出子として出産しました。周りからも非難の目で見られてきました。だから嘘だけはつかない人と付き合いたい」
「嘘はつかない。隠し事をする時は何か理由がある。不安ならすぐに必ず聞いてほしい。俺はお前に誠実でありたい」
そういうとテーブルの上に置かれている手を握られた。
彼の温かい大きな手に包まれると安心感が広がった。
「付き合ってくれるか?」
「はい」
「良かった……はぁ。緊張したよ」
「先生が緊張?」
「あぁ、こういうのは慣れてない。小林は仕事の時俺を見て怯えてるから断られるんじゃないかと思って。どうやったらお前に振り向いてもらえるのか何度食事に行っても掴めなかった。だから当たって砕けろだったよ。弁護士だから勝訴はしたくても恋愛だけは苦手で」
「勝訴って……。訴えてないのに勝ちですか?」
「そうなんだけど、俺的には何度も食事に誘いお前と付き合えるか提起してるつもりだった。だけどお前の心がわからなくて」
咲坂先生でも不安に思うことがあるなんて思いもしなかった。
いつも強気な先生のこんな一面が見れて胸の奥がキュンとした。
そのまま手を繋ぎ店の外へ出るとまだ外は暑く、手に汗をかく。それが恥ずかしくてそっと離そうとすると
「離さないよ」
と言われてしまう。
見上げると彼は満面の笑顔で私と繋いだ手を持ち上げ、手の甲にキスしてきた。
その姿に私の胸の音がうるさくなっていった。
「真衣、何もしないから今日うちに来ない?もっと話そう。一緒に今日を過ごさないか」
ドキドキする胸を宥めるように深呼吸すると私は彼の顔を見上げて頷いた。
やった、と小さな声が聞こえてきた。
ちょっと少年のような仕草に可愛さを感じてしまった。
時にはお好み焼きだったり、お寿司だったり、変わった居酒屋だったりした。
その都度お金を払おうとするが「俺が食べたいものに付き合わせてるだけだから」と言って受け取ってくれなかった。
なので私は時々お昼におにぎりやサンドウィッチを差し入れするようになった。
弁護士の仕事はデスクワークや裁判所に行くだけでなく、外出も多い。
なので合間に食べれるようなものを作った時にお裾分けしてる。
気ままに私の作った日に渡すことが多かった。
事務所で手渡すのも恥ずかしく、そんな時には早めに出勤して椅子の上に目立たないように置いていた。
車で移動の時に食べたりしてくれるようでこの前食べに行った時にそう話していた。
迷惑でないかと尋ねると、買いに行くのが面倒で食べない時もたくさんあるらしく重宝していると言われた。
咲坂先生は昼ごはんよりも仕事なのね。
凄いなぁ。
たしかに親しくなったとはいえ仕事では鬼のようで未だに「小林ー!」と怒鳴られている。そんなにミスが多いと思うなら他のパラリーガルに頼めばいいのに、と思うけど咲坂先生は平等に仕事を振ってくる。
仕事中の咲坂先生を見てると一緒に仕事をしたくなくなるし、食欲も減退するけど、プライベートの先生は話し上手でとても楽しい。いろんなことを教えてくれ私の世界が広がる気がした。
1週間ぶりに今日は鉄板焼きに連れて来られた。
咲坂先生から「今日は肉の日だ」とメッセージが来た。私が暇で断らないことをよく知っている。
でもそんなちょっと強引なところも嫌いじゃなかった。
カウンターでシェフに焼いてもらう鉄板焼きはテレビでしか見たことがなく、とても緊張した。
「小林、確か明日は友達の結婚式だったよな。スピーチは考え終わってるのか?」
「なんとなくは……」
「ほら、ここでリハーサルしてみろよ」
「嫌ですよ。先生に聞かせたらダメ出しされます」
「俺に聞かせておいた方が安心だろ」
ま、そう言われるとそうかもしれないけど……。でも恥ずかしい。
「ほら、ほら」
私はスマホを取り出した。
「原稿はこれです。口に出さずに読んでください。感想はマイルドで教えてください。いつもの鬼のようなダメ出しはやめてくださいね」
スマホを受け取るとスクロールしながら読んでいった。
こんな優しい俺を鬼だなんて、失礼なやつだなと小さな声で呟いているのが聞こえる。
咲坂先生は仕事の鬼だし、周りに対しても鬼なのに無自覚?
そう思うとクスッと笑ってしまった。
「なかなかいいと思うぞ。お前と花嫁のエピソードが簡潔に書かれているし、聞いててとてもいい関係なんだということがわかる。最初と最後に親族へのお祝いの言葉を入れたら完成だな」
「良かった〜、ホッとしました。ここでダメ出しされたら徹夜で考え直すところでした」
先生は笑いながらスマホを返してくれた。
「小林は俺のことをどれだけの男だと思ってるんだよ」
「正直鬼だと思ってます。こうしてプライベートを知らなければ恐ろしい人間だと思っていました。テレビの顔はイケメンなのに事務所ではいつも眉間に皺を寄せて怒鳴ってますもんね。でも話してみてプライベートでは楽しくて物知りで話し上手で気さくでいい人だと思いましたよ」
「最初に声かけた時はお前の顔ひきつってたもんな。それがまたむかついて強引に連れて行ったんだけどな」
「あの時は疲れてたのにますます疲れそうで心底行きたくなかったのにタクシーに連れ込まれた時は鬼の餌食になったと思いました」
「お前、それは随分とひどい言いようだな。それに仕事の時と違ってだいぶ俺に言い返すようになったよな」
「すみません」
言い過ぎたかも、と思い謝ると笑いながら頭をポンポンされる。
「今のままの方がいいよ」
ちょっとこの仕草にドキッとした。
咲坂先生の手、大きいな。
「元彼も明日来るんじゃないの?大丈夫か?」
「……どうでしょうか。3年ぶりなんです。友達として会話できるか心配、かな」
「話さなければいいんだ。ただ、お前は友達のお祝いに行ってるだけなんだから」
「そうですよね……」
私が不安に駆られているとまた頭をポンポンされた。
「大丈夫だ。俺が迎えに行ってやるよ」
「咲坂先生が?」
「あぁ。ダメか?彼氏なったらダメか?」
彼氏??
私はその言葉に顔を上げた。
「そうだよ。俺がお前の彼氏になったらダメか?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔してるけど、俺がお前の男になるのはダメか、と聞いてる」
「せ、先生?冗談でしょ?」
「冗談で言うわけないだろ。お前が元彼と別れた理由は分かってる。俺は弁護士だ。嘘は嫌いだし、誠実でありたいと思っている。お前に嘘はつかないよ。冗談で付き合うかなんて言わない」
先生からこんなことを言われるなんて驚いた。
ファンから手紙が届くくらい名前の知れた有名弁護士で、見た目も良くて女の人なら選びたい放題に見えるのに私と付き合いたい?
「咲坂先生なら引くて数多でしょう。私には恐れ多いです」
「引くて数多な訳ないだろ。毎日仕事に振り回されてるよ。小林の働きぶりも気遣いも知ってる。おっちょこちょいだけど前向きなのも分かってる。プライベートではよく食べ、よく喋る気の合うやつだと思ってる。そんなお前だから
俺はもっとそばにいたいと思った」
「先生……」
「少しも考えられない?」
「元彼と別れてずっと仕事だけでした。でもそんな中、先生が私を掬い上げてくれたんです。
先生とこうやって食事に行くようになってプライベートで笑うことが多くなりました。先生は仕事だと本当に怖いけど、それだけじゃないって分かって、それを自分だけが知ってると思うとドキドキしてました」
咲坂先生は頷いて私の目を見ている。
「先生は嘘をつかない??私に隠し事しない?私の母は父に裏切られ、私を非嫡出子として出産しました。周りからも非難の目で見られてきました。だから嘘だけはつかない人と付き合いたい」
「嘘はつかない。隠し事をする時は何か理由がある。不安ならすぐに必ず聞いてほしい。俺はお前に誠実でありたい」
そういうとテーブルの上に置かれている手を握られた。
彼の温かい大きな手に包まれると安心感が広がった。
「付き合ってくれるか?」
「はい」
「良かった……はぁ。緊張したよ」
「先生が緊張?」
「あぁ、こういうのは慣れてない。小林は仕事の時俺を見て怯えてるから断られるんじゃないかと思って。どうやったらお前に振り向いてもらえるのか何度食事に行っても掴めなかった。だから当たって砕けろだったよ。弁護士だから勝訴はしたくても恋愛だけは苦手で」
「勝訴って……。訴えてないのに勝ちですか?」
「そうなんだけど、俺的には何度も食事に誘いお前と付き合えるか提起してるつもりだった。だけどお前の心がわからなくて」
咲坂先生でも不安に思うことがあるなんて思いもしなかった。
いつも強気な先生のこんな一面が見れて胸の奥がキュンとした。
そのまま手を繋ぎ店の外へ出るとまだ外は暑く、手に汗をかく。それが恥ずかしくてそっと離そうとすると
「離さないよ」
と言われてしまう。
見上げると彼は満面の笑顔で私と繋いだ手を持ち上げ、手の甲にキスしてきた。
その姿に私の胸の音がうるさくなっていった。
「真衣、何もしないから今日うちに来ない?もっと話そう。一緒に今日を過ごさないか」
ドキドキする胸を宥めるように深呼吸すると私は彼の顔を見上げて頷いた。
やった、と小さな声が聞こえてきた。
ちょっと少年のような仕草に可愛さを感じてしまった。