教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 派手男は目を見開いて、窓に貼りついている。
 俺も慌てて外を見た。

「あれ? 田島様は、うちの桐島をご存じなんですか?」
「あ、う、うん。彼女も後輩……大学の」

 そう、これ以上ないくらい最悪のタイミングだった。

 ちょうどその時、ラウンジの入り口で亜美が顧客らしい上品な老紳士と会話していたのだ。接客が終わって見送りに出てきたのかもしれない。

 紺色のワンピースがよく似合っていて、柔らかな笑みを浮かべた彼女は本当に……きれいだった。

(きれい……って)

 そのボキャブラリーを使ったのはたぶん生まれて初めてだ。しかし今はそれどころではなかった。

(田島って、言ったよな、今)

 他人に興味がない俺が絶対に忘れまいと誓った名前――かつて亜美に危害を加えようとした男のものだ。

「大学……ああ、なるほどそういえば桐島は高砂と同窓のはずです。これは奇遇ですねえ」

 無邪気に喜ぶ外商部員に、田島がだめ押しのように「テニスサークルで一緒だったんだ」とつけ加えた。

「ぐ……」

 俺は咄嗟に、歯を食いしばって俯いた。そうしなければ、今にも田島に飛びかかりそうだったのだ。

「びっくりしたな。桐島さん……前よりずっときれいになったから」

 俺はさらに血管が浮き出そうなほど両手を握り締めた。
 よけいなお世話だ、気安く亜美を見るな、さっさと帰れと絶叫しそうになるのを必死にこらえながら。
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