教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 一瞬、身体がピクンと反応した。

(何だって?)

 肩をいからせかけてから、俺は慌てて深呼吸した。同窓で、同じサークルにいた――なんてことはよくあることだ。たとえそいつがけっこう背が高いとしても。

(お、お、落ち着け、俺)

 だが、万一ということもある。もしかしたらこの男が亜美を苦しめた張本人かもしれないのだ。

 俺は一度深呼吸して、耳をそばだてた。

 外商部員らしい男が二人分のオーダーをしてから、改めて派手男に頭を下げた。

「本日お買い求めいただいたベッドと照明でございますが、何かありましたら、すぐに対応させていただきますので」
「助かるよ。あまり縁がなかったけど、百貨店って便利だな。それにここ、洋服の品揃えもなかなかだし……ずっとセレクトショップだったけど、今度からこっちに来ようかな」
「ぜひご検討ください。うちにはTGAという特別スタッフもおりますし、完全予約制になりますが、『エクセレント・ラウンジ』というゆっくりお買い物を楽しんでいただけるスペースもございますから」
「へえ、そうなんだ。なんかいいね、それ」

 俺は頭を抱えて、小さく呻いた。

「おいおい負い……」

 いかにも金持ち風だから、外商部員の彼が派手男にアピールしないといけないのはわかる。
 だが、正直こいつには近づいてほしくなかった、ラウンジに。それ以上に亜美に!

「あれぇ」

 突然、間抜けな声が聞こえた。

「もしかして、あれ……桐島さん?」
< 102 / 128 >

この作品をシェア

pagetop