教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「あのさ。あそこって、さっき君が言ってた予約制のなんとかラウンジってやつ? 桐島さん、そこの担当なの?」
「はい、さようでございます。桐島はメンズ部門のTGAという接客スペシャリストで、あちらの『エクセレント・ラウンジ』においでいただければ、時間を気にすることなくじっくり対応させていただきます。TGAは何人かおりますが、彼女は評判いいですよ」
「へえ、そうなんだ」

 田島は声を弾ませて、「予約できるかな」と続けた。

「もちろんでございます! いつになさいますか、田島様?」
「できるだけ早くがいいな。あ、それから君の名前で予約してくれない? 久しぶりだから、彼女を驚かせたいんだよ」
「承知いたしました。では、さっそく連絡させていただきます」

 外商の彼は笑みを浮かべて、スマートフォンを手にした。

(くそっ!)

 すぐそばで、亜美にとって最悪のシナリオができ上がりつつある。

 それなのに俺にはどうすることもできなかった。電話を妨害したり、亜美に近づかないよう田島を威嚇したりすれば、もうこのカフェに出入りできなくなってしまう。

 さらにほとんど確定とは思うが、この派手男が別の田島だという可能性もゼロではなかった。もちろん自分の名前で予約しない時点で、相当怪しいが。

「えっ? 明日の十時の予約がキャンセルに? じゃあ、そこを押さえていただけますか? ええ、一時間で大丈夫です。はい、ぜひ桐島さんにお願いします」

 明日の十時――俺はいまいましい予約時間を脳裏に刻みつけ、取りあえずカフェを後にした。

 その時、『エクセレント・ラウンジ』の周囲に亜美の姿はなかった。
< 104 / 128 >

この作品をシェア

pagetop