教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「うそ……」

 背が高く、ごつめの黒縁眼鏡をかけていて、ちょっと強面だけど、とんでもない美形――莉奈ちゃんの話を聞いて、実は気持ちがざわめいた。
 そういう男性なら、私にも心当たりがあるのだ。ただし彼は今、スイスの製薬会社で新薬の研究開発にいそしんでいるはずで――。
 だから、こんなところにいるはずはないのに。

 だが莉奈ちゃんは今、「ミスター・モンステラ」と言った。

 いったいどういうことなのだろう? 彼が高砂百貨店に来ていたなんて、それも毎日のように。

「亜美、いや、亜美さん」

 少し上擦っているけれど、よく知っている声だ。

 だが呼びかけられても、私は答えを返せなかった。

(どうして?)

 いくら考えも、この状況が理解できない。

 それでも目の前に立っているのは、間違いなく林太郎さんだった。
 唇を引き結び、何か言いたげに私を見つめる彼は、ローマで別れた時と少しも変わっていない。

「えっと……亜美さん、お知り合いだったんですね」
「えっ? あ、あの――」
「じ、じゃあ、私は先に行きますから」

 莉奈ちゃんはわけありと察したらしく、私たちのそれぞれに会釈して、小走りに立ち去った。

 しかし彼女がいなくなると、私はますます途方に暮れてしまった。
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