教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「亜美さん!」

 私は声も出せずに凍りついた。

 入ってきたのは、なんと林太郎さんだったのだ。

「ごめん、亜美さん。予約もせずに」
「あ、あの」

 やっとのことでかすれた声が出た。

「どうして……ここに?」

 本当ならこの時間、林太郎さんは待ち合わせ場所のホテルに、相手のお嬢様を迎えに行っているはずだった。

 もちろん彼だってそのつもりだったのだろう。
 私は彼のためにお見合い用のスーツを二着用意したが、そのうちの一着を着てくれていたのだから。

 林太郎さんは息を弾ませながら頭を下げた。

「すまない。いきなり来たりして」
「いいえ、それはいいんです。でも、もうお見合いが始まるお時間では……」
「だから来た」
「えっ?」
「頼む、亜美さん。俺と一緒に来てくれ」
「ですが、林太郎さん。相手のお嬢様がお待ちでしょう?」
「断った……正式に」
「断った?」

 ありえない返事に頭が真っ白になった。言われたことが理解できず、私はただ目をしばたたく。
 ただの見合いではなかったはずだ。結婚だって、ほぼ決まっていたはずなのだ。 

 すると林太郎さんは私の手をつかみ、パオラとロザンナに向かって深く頭を下げた。

「すみません。どうか俺に彼女を貸してください!」
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