教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 そんな実直で職人気質だった祖父や父に似たこと、紳士服がとても好きだったこと、それだけでなく苦手意識から脱却しようと懸命に努力したのがよかったのだろうか。
 私の販売成績は意外なほど伸びた。

 その結果、TGAという専門職にもなることもできたし、VIP客をターゲットに開設された完全予約制のスペース『エクセレント・ラウンジ』の担当にもなった。

 こうしてローマで働いているのも、本店での業績が評価されたからだった。

 高砂百貨店の『エクセレント・ラウンジ』のコンセプトは「ひとりの希望に完璧に応える」というものだ。そしてそれはここのサロンにも引き継がれている。

 そんなふうに顧客を満足させるには、たっぷり時間をかけて相手と濃密に触れ合わなければならない。
 だから内気な私にとってはなかなかハードルの高いものだったのだ。

(ううん、弱気になっちゃだめ)

 私はかぶりを振って、再び今日のスケジュールに集中しようとしたが――。

(もうすぐ十一時。林太郎さんはそろそろ待ち合わせ場所に着くころね)

 またしても彼のことを考えてしまい、私は唇を噛む。

「アミ!」

 その時、ロザンナが小さな悲鳴を上げた。

 いきなりサロンのドアが大きく開いたかと思うと、誰かが駆け込んできたのだ。
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