教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「あ、あの――」

 とまどう私の手を引いて、林太郎さんは臆することなく、ホテルに入っていく。

 しかしここは前に私が訪ねた実用的なビジネスホテルではなかった。
 金のモールつきの制服を着たドアマンが恭しくドアを開けてくれて、その向こうには大理石の床や宝石のようにきらめくシャンデリアが見える。

 五つ星ランクを誇り、各国の王族やセレブ御用達として知られている『エレガンザ・ローマ』――彼が私を連れてきたのは、ローマでも指折りの高級ホテルだった。

(……どういうこと?)

 もともと目を引く容姿に加えて、今日の林太郎さんはコーディネートも完璧だ。すれ違う人たちの目には賞賛の色が浮かんでいたし、貴族の館のように贅を尽くした空間ではいっそう輝いて見えた。

 さっき仕事場から連れ出されてからというもの、ずっと夢を見続けているみたいだ。

 ここに来る前にも丘の中腹にあるリストランテで食事をしたが、そこも夜景の美しさと伝統的ローマ料理で知られる超一流店で、パオラが一度は行きたいとあこがれているところだった。

 キャンドルが揺れるテーブル、心地よいセレナーデのBGM、次々と運ばれてくる美しくておいしい料理、そして窓の外に広がるライトアップされたローマの街。

 ワインの酔いも手伝って、不思議なくらい現実感がなかったけれど、まさか林太郎さんとエレガンザ・ローマに泊まることになるなんて。

 フェリチタ庭園も、リストランテも、このホテルも、これまでの彼なら近寄りさえしなかっただろう。
 今だって本当は全然興味ないはずだ。
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