教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 東林製薬株式会社は私が勤める高砂百貨店にとっても最重要顧客で、中でも最も取引がある外商部門は部のエースが担当している。

 資本金は一兆円をはるかに超え、海外の支店や関連会社も含めれば従業員数は五万人近く。

 最近知ったが、初代の東野林作以来、創業者一族の直系男子が代表取締役社長を務め、その名前には必ず「林」の一文字が入っているという。たとえば東野林太郎のように。

(どうして気づかなかったんだろう?)

 もちろんうかつだったからだが、あえて理由を挙げるとすれば、私がいるメンズフロアと東林製薬とはまったく縁がなかったからかもしれない。

 ――あそこの社長はオーダーメイドひと筋なんだ。特別なお気に入りがあるみたいでさ。外商でもアタックしてくれてるんだが、絶対に浮気しないんだよな。

 そんなふうに以前チーフがぼやいていたが、当時の私はあまりそのことを気にしていなかった。
 まさかこんな形で自分と関わりができるなんて思いもしなかったのだから。

(ありえないもの……結婚なんて)

 どんなに林太郎さんが好きでも、いや、好きだからこそあきらめるしかない。
 東野家に生まれた人が相手では、当人同士の恋愛感情だけで婚姻関係が成り立つはずがないのだ。
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