教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 おじさまがご家族のことを口にするのは珍しい。
 話の流れで息子さんが働いていた国を訊ねようとした時、父が「いずこも同じですよ」と会話に入ってきた。

「亜美にはそろそろ結婚のことも考えてほしいのに、いろいろ心配しても、子どもは親の思惑どおりには動いてくれなくて」
「ああ、まったくだ」

 なごやかに談笑する父と林おじさまを残し、私はその場を去った。

 ローマでプロポーズされたことを教えたら、両親や兄はどんなに驚くだろう?
 しかもその相手があの東林製薬の御曹司だとしたら……?

「いや、絶対ないから」

 私は自分に言い聞かせるように、強くかぶりを振った。

 もともと林太郎さんのお見合い相手は某メガバンクの重役令嬢だった。
 彼の立場を考えれば、きっと双方に取ってウィンウィンの縁談だったはずだし、本来彼にはそういう女性がふさわしいのだ。

 今になってみると、それがよくわかる。

 はじめのうちこそとんでもない格好をしていたけれど、林太郎さんはハイブランドのものも服に負けることなく着こなしていたし、気後れしそうな場所でもまったくもの怖じする様子がなかった。

 彼はいずれ大企業のトップになる人だ。ごくふつうの家に生まれた私とは住む世界が違う。
 そもそもご家族が、思いきり一般人である私との結婚を認めてくれるはずがなかった。
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